こんにちは!FRACTA Research & Implementation(RI)局の島田です。
色を通じてブランドを考察してみたー序章として、ブランドに印象付けられた色と「五感」の関係について考察をスタートした本シリーズ。今回は2章目として「聴覚」にフォーカスをしてみます。
「聴覚」は、五感の中では前章で取り上げた「視覚」に次ぎ、情報を捉える上では11%の割合を占めます。〔『産業教育機器システム便覧』p.4 教育機器編集委員会(日科技連出版社:1972年)〕
割合だけを見ると少なく感じますが、「聴覚」も情報を知覚するにあたり非常に重要な役割を果たしています。
その色から、どんな音が聴こえる?
前回取り上げた「視覚」では、目から取り込んだ情報が個々の様々な記憶や印象をはじめとした別の情報と紐づけられていると説明しました。
今回フォーカスする「聴覚」は耳から捉える「音」の情報なのですが、分析を行うにあたって色とどんな結びつきがあるのかを考えました。そもそも、色自体から音は鳴りませんよね。
私は「視覚」で捉えた色の情報と、対象物を見た人の「音」の体験や記憶との結びつきにより連想されて、色から「音」が聴こえるように感じるものだと考えました。
これから分析していく中で、どのような音が聴こえるのかは、筆者である私の体験と記憶に基づいています。そのため、読み進めていく中で、私と違う音が聴こえるように感じる方もいるかもしれません。ぜひ、一緒に想像しながら読み進めてください。
それでは、ブランドを表現する色彩がその場面に与える音や、奏でている音が聴覚を通してどのように感じ取れるのか、今回もFRACTAが伴走したブランド事例を見て、分析していきましょう。
自然の音に耳をすまそう
SUNTORY FROM FARM Online Shop
国内の飲料メーカーとして名高いサントリー。国産のぶどうを原材料として100%使用した国産ワインを多くの人に届けています。
実績紹介ページ▶︎ワインの常識を覆す挑戦。日本ワインの普及を目指したブランディングとCX向上プロジェクト
https://japan-wine.direct.suntory.co.jp/
サイトにアクセスすると、ワインの原材料であるぶどうの果実が育つ、広大なぶどう畑が真っ先に目に入ります。自然が生み出した濃淡のある青い空と、遠景の山々や、裾野に広がる街、そして、小高い場所にあるぶどう畑の緑。
ぶどう畑はところどころ影ができていて、緑が深い色合いとなっているところもあります。この景色全体で、配色としてはナチュラルに分類されると分析します。
この事例では、複数の色が構成要素として創り出す、景色から聴こえる音を考察していきます。
私はこのぶどう畑が見渡せる場所を訪れたことはありませんが、この景色をサイトを通して視た時に思い出した景色と音がありました。
それはハイキングをした山や、広大な都立公園のベンチ、といった鮮やかな緑の葉をつけた木々に囲まれた場所です。そして聴こえてきたのは、木々の葉が風にそよぐ音や鳥たちのさえずりでした。
視覚で捉えた色彩や景色と、聴覚で捉えた音の記憶を繋ぎ合わせた結果、このサイトに映し出された風景からは、「木々の葉が風にそよぐ音と鳥たちのさえずり」といった、都会の喧騒の中ではなかなか聞こえない音が聴こえそうだ、と思いました。
実際に日本ワインを購入して飲む場所は、このような広大な場所ではなく、自宅をはじめとした屋内である場合が多いかもしれません。
しかし、このワインを手に取り、飲んだ時に、ぶどう畑の広がる景色とそこから聴こえてきそうな音を想起して、サイトに記載の「日本ワインでちょっと贅沢を」の文字通り、ちょっとした贅沢感を味わいながらリラックスしてワインを楽しめる、といった効果が生まれるのではないでしょうか。
透き通った音が聞こえる
室町硝子工芸
室町硝子工芸は、日本の伝統文化である切子(カットグラス)の技術を世の中に広め、継承し続けることを目指すブランドです。
実績紹介ページ▶︎日本の切子をシンプルかつ丁寧に訴求するECサイト構築支援
https://muromachi-glass-art.com/
ライトグレーの背景の前に自由に踊るように並ぶ切子のグラスたち。背景色が落ち着いた印象を与えます。このグラスを目にした時に、私の脳裏には2つの体験の記憶が蘇りました。
1つ目は、幼い頃に麦茶が入った硝子コップをお箸で軽く叩いた体験と音の記憶です。この時聴こえた音は、「なんて可愛い音なんだろう、私が好きな音だ…!」と当時幼稚園児だった私の中に鮮烈な印象を残しました。
そして2つ目は、小学生時代の夏休みの旅行で訪れた月夜野びーどろパーク(群馬県)での音の記憶です。
蒸し暑い夏の日でしたが、建物の軒に設置されたカラフルな風鈴にぶら下がった“舌(ぜつ)*”が風に揺られ風鈴に当たり、優しく響く音が聴こえました。夏の蒸し暑い空気を涼やかにしてくれるような印象が強く残っています。
*舌(ぜつ):風鈴本体に当たる、短冊がぶら下がっているパーツのこと
この2つの体験を通した音の記憶により、私はこの切子のグラスが映し出された画面からは涼やかな透き通った、ちょっと可愛らしさも感じられる音が聴こえるようだと思いました。
グラスが置かれた空間は少し濃さを感じるグレーの土台ですが、奥に映るライトグレーの背景とのコントラストがあることにより、硝子特有の重厚感を程よく感じられる効果があるとともに、硝子が持つ色と音の透明感を際立たせているようであると分析します。
室町硝子工芸のWebサイトの室町硝子工芸についてにはこのような言葉が掲載されています。
腕利きが、一つひとつ丁寧に刻む緻密な美しさは、唯一無二。世界に誇るべきものです。私たちのミッションは、そのきらめきが与えてくれる豊かな時間を一人でも多くの方に届け、未来に繋げることーー。
切子グラスは飾る、使う、という楽しみがあるようです。
飾られた切子グラスからは実際には音が鳴りませんが、グラスのきらめきを眺め、グラスが奏でる音を想像しながら、手で持ってその重厚感を感じる、といったように、グラスとともに正に“豊かな時間”が過ごせそうです。
お菓子と賑やかな笑い声と
TORAKICHI
こちらは、埼玉県熊谷市を代表する1864年(元治元年)創業の老舗和菓子店「梅林堂」が手がける洋菓子ブランドです。「ENJOY(たのしむ)」をテーマに、色とりどりのお菓子を展開しています。
実績紹介ページ▶︎お菓子の楽しさをシームレスに体験できるブランド構築支援
サイトにアクセスすると、画面左側には鮮やかな赤色(朱色よりもやや深みがあり、赤色よりもやや黄色を帯びている)を背景に白いロゴが配されています。右側には柄パターンとお菓子が配され、画面からはポップな印象を受けます。
構図と画面上に配された柄、そして配色の2つに分けてやや細かめに分析してみたいと思います。
まずは構図と柄です。左右2ブロックに分けて、左半分はロゴを配した静かな雰囲気です。右半分は4ブロックに分割され、対角線上の右上、左下はさらに4ブロックに分割されています。この大きく分けた左右の構図からは静けさと躍動感、という相反する印象を感じとることができます。
お菓子や柄が配された右側のブロックには、斜めのストライプと直角三角形の三角模様が描かれています。お菓子の向きと合わせた配置で、躍動感の中にも秩序や統一感を感じることができます。
次に配色です。画面左半分のメインカラーは朱色よりもやや深みや光沢感があるように感じられ、下に示したメインブランドである梅林堂のロゴに使われている色よりも少し鮮やかで軽やかさを感じられます。
右半分の分割されたスペースには、左半分と対照的にお菓子の色を含めて多色使いをしていますが、メインカラーとなる赤色を柄の色として配色するとともに、お菓子がもつ色にトーンを合わせたやや深みのあるベージュを部分的に取り入れています。
さらに色が与える印象を分析していきます。メインカラーとして使われている赤は、一般的にエネルギーや活力を連想させる色です。やや朱色がかっていることから、鳥居の色→和→伝統、という連想もできると考察しました。
そして画面右半分で柄を構成する色として使われるやや深みのあるベージュは、赤色とは対照的に落ち着きや安心感、優しさを感じ取れるように思えます。
ここまで分析した結果、Webサイトの構図と柄、配色から、私はTORAKICHIのお菓子を囲んでわいわいと楽しむ、団欒の音が聴こえるように感じました。
CONCEPTには「ENJOY(たのしむ)をテーマにした洋菓子ブランドである」と記載されています。伝統ある梅林堂から生まれたTORAKICHIが創り出す美味しいお菓子を楽しんで食べてほしい、というメッセージがこのサイトからも読み取れるようだと考察しました。
冒頭で述べたように、実際には色から音は鳴りません。
しかし、実体験をもとにした記憶 ー 訪れた先で見た景色や、印象に残っている経験 ー と視覚を通して取り入れた色の情報が紐付き、掛け合わさった時に初めて色が持つ音が聴こえるのではないだろうか、と考えたのでした。
音には色がある…?
色から音は鳴らないとお伝えしてきましたが、関連書籍を探しているうちに非常に興味深い言葉に出会いました。それが「共感覚」です。「共感覚」とは、音や文字から色を感じる現象を指します。〔『ドレミファソラシは虹の七色?』p.3-4 伊藤浩介(光文社新書:2021年)〕
抽象絵画の創始者であるワシリー・カンディンスキーは、音楽から受けた印象を絵画として表現する手法で作品を創作していたことで広く知られています。カンディンスキーの作品は、Google Arts & Cultureから鑑賞できます。
例えば、私が「ド」という音を聴いて想像する色は「赤」でした。幼少期のピアノレッスンで初めて手にしたレッスン教本が赤色であったことから、“始まりの色 =「赤」”と認識し、初めて習った音である「ド」は「赤」、と無意識に捉えていたというのが理由です。中には他の色を想像する方も、勿論いらっしゃるかと思います。
音から感じ取ることができる色と共感覚について研究、分析をした書籍である『ドレミファソラシは虹の七色?』より非常に印象深かった一節をご紹介します。
音とは、空気などの振動を、耳を介して脳が感知したものだ。つまり、音は振動そのものではなく、振動を感じた脳が作り出した、主観的な感覚であり心理現象なのである。
『ドレミファソラシは虹の七色?』p103-104 伊藤浩介(光文社新書:2021年)
物理現象としての音波も、聴く人によって感じ取る音が違うことがあるそうです。音の高さの主観的な感覚は心理学用語においては「ピッチ」という言葉で表されます。音はただ「聴覚」に直結しているわけではなくて、心理的要素があったのですね…
心理的要素といえば、色彩心理学という色を用いて心理や行動を分析する学問もあります。こちらについては、また次回以降のどこかで触れたいと思います。
いかがでしたでしょうか?
想像を膨らませながら読んでいただけたらとても嬉しいです。
次回は、色が与える「触覚」情報とブランドの印象を紐解いていきます。お楽しみに。