みなさん、はじめまして。
ピアニスト・ライターの門岡明弥(カドオカ ハルヒサ)です。
私はピアノ演奏・レッスン活動を行いながら執筆活動にも取り組んでいるのですが、ふとしたご縁から今回の記事を書かせていただくこととなりました。
普段は著名なアーティストにインタビューしたり、CDのライナーノーツを執筆したり、演奏会のライブレポートを執筆したり…と、主にクラシック音楽にまつわる記事を執筆しています。
こんな自己紹介をすると、これからクラシック音楽の話をするのか!? と思われてしまいそうですが、決してそんなことはありませんのでご安心を(笑)。
今回お話するのは、音にまつわるシンボリック・エクスペリエンスについてです。
ブランドを象徴する“音”
ある音を聴いたら、瞬時にそのブランドのイメージが浮かぶ。みなさんはそんな経験をしたことがありますか?
たとえばSlackの「スッコココ」(これ、公式の表記らしいです)という通知音やLINEの通話時に流れるメロディ、Macの起動音やファミマの入店音など。それらの音を耳にしたとき、条件反射的にそのブランドのことを思い浮かべてしまった経験があるのは、きっと私だけではないハズ。
そのようにブランドを瞬時に想起させる“象徴的な体験”は、「シンボリック・エクスペリエンス」(以下、SX)とFRACTAでは呼ばれています。他にも、ブランドをイメージした香りを作って商品の梱包に忍ばせたり、商品のパッケージを開けるときの肌触りにこだわったり、独特な発音の名称を付けたり。 音以外にも、ブランドを象徴する体験となりえる成分はさまざまです。
ブランドの持つ世界観や文脈に沿ったSXは、ユーザーに対してブランドへの興味を深め、愛着を持つきっかけを生んでくれます。そのため、SXは“ユーザーに愛されるブランド”を生み出すための大切な要素のひとつなのです。
では、その中でも“音”を活用してどのようにSXを演出していくのか。事例を紹介しつつ、紐解いていきたいと思います。
「BALMUDA The Pure」の操作音
シンプルでありながらも洗練されたデザインの家電を多く生み出すメーカー、BALMUDA(バルミューダ)。写真は、バルミューダの空気清浄機こと「BALMUDA The Pure」です。私自身3年前から愛用している空気清浄機なのですが、実は操作音に大きな特徴があります。
この音、どこかで聞いたことがありませんか?
そう、航空機のシートベルトサインの音です。バルミューダの担当者さんによると、清浄感を感じる場所はどこか考えた末に思いついたのが空港だったのだとか。そこから着想を得て、最終的にシートベルトサインの音が操作音として採用されたそうです。
本体には強力に空気を吸い込む「ジェットモード」が搭載されていることや、内部の整流翼は航空機のジェットエンジンのテクノロジーを参考にして作られている点からも、シートベルトサインの音との強い親和性を感じさせられます。
それに、ボタンを押す度にシートベルトサインの音が小気味よく鳴ってくれる操作感には、どこか“メカを操作しているような心地よさ”もあるんですよね。自分自身の手でこれを動かしているんだ!という能動的な実感…とでも言うのでしょうか。
ちなみにジェットモードにすると1オクターブ高い音が鳴るところもポイント。より作用感が強調されて、部屋の空気がキレイになりそうな期待感を覚えます。
以前、バルミューダの新商品発表会に伺ったことがあるのですが、そのときに社長である寺尾玄さんが「実は昔、ロックスターになりたかったんです」とお話されていた姿が記憶に残っています。音作りにかける徹底的なこだわりは、ミュージシャンとして活動していた寺尾さんだからこそ、なんだなぁと。
たった一音、されど一音。ひとつの操作音に関する話ではありますが、そこにはバルミューダの世界観や哲学が色濃く表れているのです。
また、バルミューダには、操作時に楽器の音が鳴る商品もあります。たとえば「BALMUDA The Range」ではモード切り替え時にギターの音色、調理中にドラムのリズムパターンが鳴るように作られていて(笑)。しかも、これらはプロミュージシャンの音をサンプリングして作られているみたいですよ。こだわりがすごい!
「iPod Classic」のクリックホイール音
Macの起動音を始め、Apple製品には印象に残るさまざまな音が存在しています。その中のひとつが、「iPod Classic」に搭載されているクリックホイールの操作音。
製品自体は2014年に販売終了となっているため、触ったことがない方もいるかもしれませんが、あのコリコリ音はなかなか癖になっていました。
iPhoneにクリックホイールを再現できるキーボードアプリをダウンロードして、動画撮影したものがこちらです。
硬質でありながらも、どこか木の質感を思わせるコリコリ音。Apple製品のミニマルなイメージと非常にマッチした音となっており、操作感に心地いいアクセントを与えてくれています。本当は実物の「iPod Classic」があればよかったのですが、数年前に捨ててしまったため、あくまでiPhoneによる参考動画になります。
やっぱりこのコリコリ音は気持ちいいですね。それに、この音を聴いていると本物の「iPod Classic」を持っていた頃の記憶もふと蘇ってきます。当時は中学生だったかな…なつかしい。
「AirPods」の名前が持つ語感
iPodの話から逸れてしまいますが、「AirPods(エアポッズ)」の語感のよさもSXだと感じています。
完全ワイヤレスイヤホンの性質によるところも大きいとはいえ、「AirPods(エアポッズ)」という名前が持つ“軽い音の響き”からは、ストレスフリーな使い心地や装着時の軽やかさ、さらにはApple製品特有のミニマルさまで感じ取ることができます。
操作音との話とは少し異なりますが、名前が持つ語感のよさも音にまつわるSXのひとつだと言えるでしょう。
ブランドの世界観に沿った“音”を抽出する
いくつか事例をご紹介しましたが、どんな商品やサービスでも適当にいい感じの操作音や名前をつけたらSXとなるのか?と言うと、決してそんなわけではありません。
たとえばバルミューダの商品から、キュルルン♪としたメルヘンな音が鳴ったらどうでしょうか。それはそれで魅力的かもしれませんが、洗練されたデザインの家電を多く生み出しているバルミューダの引き算的な世界観とは乖離してしまいますし、実際に商品を使用する際にもそれがポジティブな使用感を生み出すとは考えづらいですよね。おもちゃやゲームであれば、話は別ですが。
そのため、どんな音でもSXになりえるわけではなく、あくまで“ブランドの世界観や哲学を象徴する音”がそこに存在するからこそ、ユーザーはそのブランドのことを好きになったり、他の商品も使ってみたいと感じたりするきっかけとなるのです。
今回は音のSXについて書きましたが、「そもそもSXをどのようにして導き出すのか?」については、FRACTAのnote記事(フラクタ的「ブランドUX設計」のススメ)も参考にしてみてください!
FRACTAはブランドの立ち上げから強化、DX、体制構築まで企業の成長に寄り添い伴走するトータルブランディングパートナーです。ブランドの挑戦をテクノロジー、クリエイティブ、ビジネスの力で支えます。
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