こんにちは!FRACTA Research & Implementation(RI)局の島田です。
先日、DIGIDAY[日本版]で気になる記事を見つけました。
カンヌ映画祭 でBMWが短編映画を披露した意味。「視聴される広告を作る」
この記事から、ブランドによる短編映画の活用と、観る人への伝わり方について考えてみたいと思います。
短編映画「THE CALM」
BMWといえば、ドイツの高級車として知られている有名なブランドですね。
「BMWの短編映画」と聞いて、どのような内容を想像しますでしょうか?車のブランドだから、走りを魅せる、インテリア・エクステリアにスポットライトを当てる…?車は当然登場するだろうけれど、それが短編映画とどのように紐づくのか、正直なところ私は最初、いまいち想像がつきませんでした。
そこで早速、紹介されていたBWMの短編映画「THE CALM」を視聴しました。7分ほどの長さですが、スピード感がある“アクションムービー”でした。視聴を終えた私は、すっかり短編映画の世界に引き込まれ、月並みですが、「かっこいい…とにかくかっこいい…!」という感想を抱いたのでした。
実は私、5月中旬の休日に家族とBMWのショールームを訪問しました。
この短編映画を観る前に、BMWというブランドを体感するイベントがあったという訳です。
そこで視聴したコンセプト動画は、先に述べた短編映画とは別のものでしたが、これから何かの映画が始まるのか?と思わせてくれるもので、たった数分で没入感を覚えました。(ショールームで視聴した動画を探したのですが、おそらくショールーム公開専用だったのか、一般公開されていないようでした。)
ショールームで視聴した動画と今回カンヌ国際映画祭で公開された「THE CALM」は、BMWというブランドの車の宣伝にとどまらず、その車が創り出す世界観を見事に表現し、オーディエンスをぐっと引き込むものであったと思います。
エンターテインメントの一環として制作されているので、描かれている機能の中には実際に体験できないものもあるようですが、この映画内では、先進的なイメージを与える車ー タッチレスで指の動きを察知して操作ができるセンターコンソール、内装・外装ともに美しく洗練されたビジュアルなど ーをアクションとともに映し出すことで、没入感に加えて魅力も与えているように考察します。
先に述べた「かっこいい」という感想はどうやって生まれてくるかと考えてみると、それは車そのものの魅力だけではなく、登場する俳優のスタイリッシュさ、ストーリーのスピード感を全て掛け合わせ、没入感に浸った結果だったようです。
なぜ短編映画として表現したのだろうか?
先に紹介したDIGIDAY[日本版]の記事によると、BMWのブランドエクスペリエンスバイスプレジデントのStefan Ponikva氏は、BMWというブランドの大きな変革を象徴する車の宣伝においては“ストーリーテリングによる伝え方が観る人に答えを与える”という趣旨のコメントを寄せています。
確かに、とにかく人々の目に触れる機会を増やすという目的で、CMをはじめとした広告を沢山打ち出すようなマーケティング戦略をとることも考えられるでしょう。しかし、このように短編映画を制作して見せることにより、私自身が感じたような没入感を創出し、ブランドの世界観をより強く感じてもらえるのだと思います。
短編映画を通して伝えられた世界観には、人々により大きなインパクトを与え、ショールームへ足を運ばせ、実際に車を見て体験したいと思わせる、そんな誘導の道筋が描かれているのではないでしょうか。
また、CMなどよりも長い時間をかけてじっくりと世界観に浸ってもらうことで、人々により強くBMWというブランドを「記憶」してもらう。そのために、短編映画という手段を選んだのだと推測しました。
私は、BMWが20年間もこのような短編映画をはじめとしたブランドコンテンツを作り続けてきたことを、この記事を通して初めて知りました。今回の「THE CALM」は、2016年にBMW Filmsが送り出した「The Escape」以来の短編映画だったそうです。こちらもBMWの世界観にどっぷりと入り込める短編映画です。
同記事では楽器ブランドであるFenderがアーティストのSteve Lacy氏とパートナーシップを結び、同ブランドの新しいギター“Signature Fender Stratocaster”の宣伝において、短編映画を発信の手段としたことが紹介されていました。
こちらも実際に視聴しましたが、注目を集めるアーティストに同社のギターを演奏してもらい、それを短いCMではなく短編映画としたことで、同じ時を共にするような感覚を与えていると感じました。FenderとBMWは商品は違えど、どちらもファンが多いブランドです。ファンの間では大きな話題になるでしょうし、同じものを手に取り、体感・体験したくなる、という動きにつながるように思います。
短編映画による表現は、CMなどよりも長い時間をかけて観てもらうことで、ブランドメッセージやブランドが創り出す世界観をじっくりと味わってもらいオーディエンスに記憶と余韻を残す、そしてブランドと接触する機会を作り出す、という道筋なのだと感じました。
ただ短編映画を作ればいいわけではない
私は、先に紹介した2本の短編映画を実際に視聴してすっかりブランドの世界観に引き込まれた一方で、「資金力のあるブランドだから成せる業なのだろうか…」と密かに感じてしまったのでした。
その感想に対する回答かのように同記事に掲載されていた、TBWA NYグループのRob Schwartz氏のコメントをご紹介します。
「今、このメディアが機能するのに必要なのはコンテンツの品質だ。だから、映画自体がAppleの最近の(短編映画)「アンダードッグズ(Underdogs)」のようによく、関連性があり、魅了するものでなければ、短編ブランド映画はブランドの虚栄心を満たす高価な取り組みに過ぎない」
このような短編映画作品を作るには、ブランドをよく理解したクリエイターや監督が必要なことはもちろん、影響力のある俳優やアーティストに参画してもらうには、資金面でもパワーが必要になります。そして何より、ブランドが発信するメッセージが明確であること、それがオーディエンスに意図した通りに届くことが最も重要であると考えます。
どんなに名が広く知れていて、多大な資金を投じられるブランドであったとしても、伝えたいものが明確でない映画は、オーディエンスの目に触れる機会を得られたとて、実際に心を動かし、行動を促すことができるでしょうか。真にブランドが伝えたいことは何なのか、それをどのように表現して、オーディエンスに届けるのが一番効果があるのか…(もしかしたら、短編映画よりも数十秒のCMの方が効果的な場合もあるかもしれません)、ブランドは表現方法を考えて、消費者に届けていく工夫を続けなければいけないのだと思います。
…短編映画繋がりの余談になりますが、日本では“ショートショート フィルムフェスティバル”という国際短編映画祭が開催されているようです。ブランドの世界観に没入できるこの短編映画をきっかけに、短編映画をもっと体験してみようと思ったのでした。TikTokやInstagramのショート動画でも、CMでもなく、短編映画というものに触れ、独自の面白さに出会いたいなと思っています。