顧客の期待と懐疑心、そしてブランドに求められる一貫性 起こり得る課題とその解決方法を探る#連載「今こそ考え、実現する!ECとブランディング」最終回

顧客の期待と懐疑心、そしてブランドに求められる一貫性 起こり得る課題とその解決方法を探る#連載「今こそ考え、実現する!ECとブランディング」最終回

今回は、今までの集大成としてコマースを含めた全業務への「ブランディング」の実装、そして今後起こりうる課題と解決方法について、まとめていきたいと思います。


ブランディングをすべての業務に実装する際の課題の一つは、すべてのタッチポイントで一貫性を確保しなければならないことです。ソーシャルメディアからカスタマーサービスまで、顧客とのあらゆるやり取りがブランドを強化する機会につながります。

しかし、多くのチャネルやタッチポイントがあるため、一貫したメッセージを維持することは大変難しいと言えます。

また、急速に進化する現代のデジタル環境において、ブランディングという概念はこれまで以上に重要であると同時に、より難解なものとなっています。

現代の消費の中心になりつつある1981年から1996年に生まれたミレニアル世代は、絶え間なく進歩する技術の中で育ち、コミュニケーションやコンテンツの消費、商品の購入方法などの大きな変化に適応しなければならなくなりました。

この急激な変化は、今後もコマースを含む様々な業務におけるブランディングに関して、チャンスと課題の両方をもたらします。これらの課題を紐解きながら、解決策について探ってみたいと思います。

 

情報に囲まれる顧客 「意味のあるつながり」が差をつける

アテンションエコノミー

この情報化時代、顧客は日々、圧倒的な量のコンテンツやマーケティングメッセージにさらされています。膨大な情報量の中で、顧客の注意を引きつけ、維持することは重要な課題です。

ブランドは、混沌とした世界で際立った存在となり、常に魅力的なコンテンツを作成し、ターゲットとなるオーディエンスと意味のあるつながりを育む必要があります。

そのためにはストーリーテリング、ユニーク・セリング・プロポジション(USP)の設計と顧客の価値観や関心に共鳴する、データ駆動型のパーソナライズされたマーケティング戦略が有効です。


顧客の懐疑心

現代の顧客は従来の広告に対して健全な懐疑心を持ち、しばしば「押しつけがましい」「不真面目」「操作的」とみなしています。顧客と長期的な関係を築こうとするブランドにとって、信頼は今や重要な通貨となっています。常に信頼を失わないように気をつけなければなりません。

大切なのは透明性が高い価値主導のコミュニケーション戦略を採用することです。ユーザー生成コンテンツ(UGC)、レビュー、商品とブランドを理解してくれるインフルエンサーとのパートナーシップを活用し、顧客への信頼性を高めることが重要になります。

ブランドや信頼性への毀損をどれだけ減らせるか。これは案外見落とされているポイントでもあります。


断片化されたカスタマージャーニー

昨今のカスタマージャーニーはますます断片化し、様々なプラットフォームやデバイスを介した複数のタッチポイントが存在するようになっています。これらすべてのチャネルで一貫したブランド体験を管理することは、重要な課題です。

すべてのタッチポイントに対応したオムニチャネル戦略を策定し、シームレスで一貫したブランド体験を実現する。そのためのデータ分析の体制、顧客基盤の構築が必要不可欠と言えます。


生まれた時間を創造的に使えるかがAI活用の本質

急速な技術進化

AIや機械学習などの技術進歩の台頭により、マーケティングの状況は一変し、従来の手法も時代遅れになりつつあります。ブランドはこのような変化に対応するために、軽快で適応力のある、即応性の高い行動をとり続ける必要があります。

もし過去の成功体験に縛られ、打ち手が遅れると致命傷になり得ます。外部に丸投げするのではなく、継続的な学習とトレーニングをしていく。そしてノーコードやローコードのツールをベースに自社での開発に投資し、最新のマーケティングテクノロジーとプラットフォームに対応できるよう、人材育成と外部のディレクション体制の構築をお勧めします。


高まる期待

現代の顧客、主にミレニアル世代とZ世代は、特に社会的・環境的責任という点で、ブランドに対して大きな期待を持っています。商業的な利益と、倫理的で持続可能な行動とのバランスは、多くの企業が直面する課題と言えます。

トリプルボトムライン(社会的側面・環境的側面・経済的側面)を受け入れ、社会的責任と持続可能性のイニシアチブを、ブランド運営とメッセージングの中核に統合する必要があります。

これらの膨大な課題を解決するために、企業はジェネレーティブAIやChatGPTを利用して、作業を効率化することが可能になってきています。

しかし、AIをただ活用するだけでは、売上はまったく上がりません。効率化されることである程度の利益を上げることはもちろん可能ですが、それだけでは物量的に限界があります。

真に考えるべきは、AIの活用によって生まれた時間を、ブランドならではの体験を生み出すために費やすこと。ビジネスの長期的な成長のためにAIを活用することです。

AIの存在は、乗り物にたとえると「新幹線」のようなものです。歩いていくのか、新幹線で行くのか。その時間の差はとてつもない大きさです。最大限活用したほうが良いでしょう。

ただし、「どこに行きたいのか、なぜ行くのか」が定まっていなければ、どんなに急いだところで意味はありません。AI時代だからこそ、最大限に効率化して生まれた時間を使い、商売の原点に立ち返って思考を深めることが、生き残るためのブランド運営、長期的なビジネス成長の実現可能性を高めます。

絶え間なく降り注ぐ課題に対して、テクノロジーを駆使し立ち向かっていくことが重要です。一つひとつは特別なことをする必要はありません。


自分たちができること、やるべきことを見極め、少しずつでも積み上げていくことがブランディングにおいてはとても大切です。

ブランディングをすべての業務に導入し、すべてのタッチポイントで一貫性を確保できたとき、あなたのブランドはきっと、顧客から選ばれるようになっているはずです。