リテールビジネスにおいて、コマース全体へのブランディングの浸透に必要な要素は、多面的かつ網羅的になっています。そもそも、「e」コマースと呼ばれる時代は既に終盤に差し掛かっていると言えるでしょう。
BtoB・卸売、CtoC、D2C、ネイティブアプリ・CRM、ビッグデータ分析、ID統合、OMO、オムニチャネルなど、あらゆる側面へブランディングを浸透・接合することが求められています。すべてにブランディングを浸透していくのは容易ではありませんが、長期的な計画のもと、少しずつでもアクションすることが大切です。
第4回▶︎「らしさ」の象徴と信頼が利益を生み出す ビジネス視点で紐解くブランドとブランディング
観点ごとに見るブランディングの形
物流の観点
効率的なサプライチェーンマネジメントを通じて、コスト削減や在庫管理の最適化が重要なのは間違いありません。しかし、そこにブランディングがどう関わってくるのでしょうか。
ファッションブランドのZARAは、迅速な製品回転率を実現し顧客のニーズに素早く対応しています。ブランドの顧客が誰なのか具体的に理解し明確化することで、迅速な製品回転をブランド価値に還元しているのです。
効率的なサプライチェーンマネジメントや無駄の削減、持続可能性への取り組み、迅速な配送とリアルタイム在庫管理など、物流や生産管理の側面でもブランドらしさを発揮すべきシーンは多くあります。
クリエイティブの観点
これが最もわかりやすい例です。ストーリーテリングを用いてブランドイメージを構築し、顧客の感情に訴える。Appleはシンプルかつ革新的なデザインと機能性を追求し、強力なブランドイメージを確立しています。
デザイン思考を導入し、顧客のニーズを満たす革新的な製品やサービスを提供すれば、商品のデザインは単なる「視覚的訴求」にとどまりません。ブランドのアイデンティティや思想を体現、ひいてはメッセージそのものになります。
それらを継続的にクリエイティブに反映する、「デザインシステム」の構築・運用が重要です。既に多くの企業が実装しており、当たり前になっています。
顧客理解・カスタマーサポートの観点
人工知能(AI)と機械学習(ML)は、現代のリテールビジネスにおいてブランディング戦略を強化するための重要なツールです。大量のデータを分析し、消費者のニーズや行動を予測する能力をもっています。これにより企業は、ターゲットとなる顧客により適切な商品やサービスを提供でき、ブランドイメージが向上します。
顧客セグメンテーションとパーソナライゼーション
AIやMLを活用することで、消費者データをもとに顧客セグメントを特定し、各セグメントに対してパーソナライズされたマーケティング戦略を展開できます。これにより、顧客との関係を深め、ブランドロイヤリティを高めます。
商品推奨と個別化
AIやMLを用いて顧客の購買履歴や閲覧履歴を分析し、彼らが関心をもちそうな商品を提案できます。顧客は自分に合った商品を見つけやすくなり、ブランドに対する満足度向上が期待できます。
ジェネレーティブAI登場 事業規模問わずブランディングの実装へ
AIやMLによるブランディングは、既に活用が進んでいる領域でもあります。これに加えて、昨今のジェネレーティブAIの発達を踏まえたアプローチも有効になってきています。
チャットボットを活用した顧客対応
AIを活用したチャットボットは、顧客からの問い合わせに24時間対応、顧客のニーズに迅速かつ適切に対応します。これにより、顧客満足度の向上およびブランドイメージの強化が可能です。
たとえばYuma AIでは、ChatGPTがブランド特有の言い回しやコンテンツを学習して、ブランドチャットボットとして機能します。ヘルプデスクにインストールすれば、自動的にブランドに合わせたナレッジベース全体の構築も可能です。
また「ソーシャルメディア分析」でも、AIやMLを活用してソーシャルメディア上の消費者の意見や感情を分析。ブランドの評判や競合他社との比較を把握できます。マーケティング戦略を適切に調整することで、ブランドイメージの向上が期待できます。
加えて、自社がこれまでに作成したプレスリリースや製品写真、ブログ記事やツイートなどをAIが学習し、あらかじめ定義した内容に基づいて製品写真やブログ記事、ソーシャルメディア投稿用の画像や短文などを、簡単に生成できるようになります。
Google Cloudも、開発者、企業、政府に対して、ジェネレーティブAIを提供していくと発表しています。
今後は、ソーシャル発信のコンテンツやイメージ画像もAIが生成するようになるでしょう。そうなるとやはり、「ブランドとしてどういった顧客にどういったメッセージを発信するか」という基本設計が重要となります。
新たなテクノロジーやトレンドの登場で、ブランディング戦略にも変化が生じます。そのため、継続的な調査と分析が肝心です。一方、テクノロジーの活用はコマース全体へのブランディングの浸透を促進。より幅広い業務や施策の効率化を、省エネルギーで実現できるという希望もあります。
もちろん、ビジネスシーンにどう適用するかなど実践的な視点は、まだまだこれからです。しかし今まで超大企業が苦労してきた、全業務へのブランディングの実装が、今後はテクノロジーの力で事業の規模を問わず実現可能になっていくでしょう。むしろ、「実現が急務」とも言えます。
次回、最後の章では、コマースを含めた全業務へのブランディングの実装における課題と、その解決方法をまとめていきます。