こんにちは。FRACTA代表 河野です。
本記事は、「今こそ考え、実現する!ECとブランディング」と題した連載記事です。ブランディングとは何か、事例を併せてお伝えしていきます。
第1回▶︎ECとブランディング。今こそECにブランディングが必要なワケ
成功事例に学ぶ 細部にまでこだわった仕掛け
前回はECにおけるブランディングの重要性をお伝えしました。今回はその具体的な事例をご紹介します。ここで挙げるのは一般的なブランディングの成功事例ではありません。あくまでECを主体とした場合の成功事例です。
そもそも、ECにおけるブランディングの「成功」とは何なのでしょうか。ここでは「顧客からの高い信頼を得て高利益体質を実現できている」と定義します。そうすると、達成に向けて必要な要素は次のように分解できます。
- 顧客を理解したうえで適切な価値を提供できている
- 顧客が求める形とタイミングで価値を提供できている
- 顧客からの信頼を十分に勝ち得るためのコミュニケーションが達成されている
これらが実現されている成功事例をいくつかピックアップしました。
BEAMS(ビームス)
ECの要素にはふたつの側面があります。顧客から直接見ることができる「フロントエンド」と、顧客には直接見えないものの提供する体験において重要となる「バックエンド」です。BEAMSのECサイトは、フロントエンドとバックエンドにおいて、顧客が求める体験をバランス良くかつ徹底的に実現しています。それは、顧客を理解できているということの裏付けでもあります。
ブランディングにおいては、フロントエンドだけが重要だと誤解されがちです。実際には非常に危険な考えかたと言えるでしょう。フロントエンドだけに意識が偏ってしまうと、バックエンドがおざなりになります。フロントエンドの演出で顧客の期待値が高まったにもかかわらず、商品が届くのが遅い、欠品が多い、梱包が雑、カスタマーサクセスの対応がいい加減など、顧客をがっかりさせてしまうでしょう。これはブランド体験において決定的な損失です。それを理解し顧客と向き合うことで、ブランドの信頼を維持することが必要です。
BEAMSの場合、顧客の期待値に対して、商品供給、物流、カスタマーサクセス、コミュニケーションのどこをとっても同じレベルでクオリティの高い体験ができます。
SENN (セン)
SENNというブランドにおいて、大切なのは「空気感」。通常、顧客がブランドの持つ空気感に溶け込むのは簡単ではありません。ブランドのストーリーに触れたり、商品を実際に手に取って体験してみたり、あらゆる文化的体験を経て辿り着くはずです。一方、SENNの場合は知らず知らずのうちにその空気感に溶け込んでいく自分が楽しく、そして「楽」な気持ちになってくる。デジタルとリアルを組み合わせ、心身ともに癒される体験に導くことを目的とした設計がなされています。
その空気感を伝える仕掛けはひとつではありません。サイト全体のコミュニケーションはもちろん、情報発信の仕方、ポップアップストアを出す場所や出しかた、PRの手法に至るまで、すべてが丁寧に織り込まれています。前出のBEAMSとは逆に、ECという存在を感じさせず、あくまでブランドとの最終接点のひとつとして空気に溶け込ませているのが特徴です。
UTAGE(ウタゲ)
UTAGEにおいて、「ライブ感」はブランドと切り離せない要素です。商品をただ売ることが目的ではなく、「少しでも多くの人に日本酒や本格焼酎の魅力に触れてほしい」という、蔵元の想いを届ける役割を担っています。
CRMやレコメンドなどの手法はあえてとらず、「ライブ感」を最大限に引き出すための機能・体験に絞る。それが、よりわかりやすいコミュニケーションを実現しています。
魅力に触れる、感じる、学ぶ。「体験」を届けることを目的に置いている事例です。「顧客が求める形とタイミングで価値を提供する」ために工夫を凝らした結果、今までのECの常識とは少し変わった、より先進的なチャレンジを成功させています。
フォーカスすべきは「商品」ではない 「人」と「体験」でブランドは生き残る
紹介した事例は一見すると相反するものに見えるかもしれません。大手老舗ブランドか新進気鋭のブランドか、さらには、企業規模や販売している商材、ECサイトの役割も違います。ただ、まったく異なる事例のように見えて実は共通していることがふたつあります。
ひとつめは「人」にフォーカスしていること。そしてもうひとつは商品だけではなく「体験」も売り物だということです。顧客とスタッフのコミュニケーションや顧客体験、それを実現するための効率化。本当に必要な価値や伝えるべきことが決まっていれば、物事の取捨選択ができます。
ブランディングを成功させている企業は、顧客および生活者に象徴的な体験を提供しています。他者には真似できない象徴的な体験が生まれるからこそ、顧客はそのブランドの商品を買い続け、周りの人に伝えたいと自然に思う。それにより得られる圧倒的な信頼と共感に支えられてブランドは成り立つのです。単に価格が高くても買ってくれるという話の枠にはとどまりません。生産量や物流など、さまざまなポイントにおける無駄を削ぎ落とすための道筋になります。つまり、取引先とのコミュニケーションや採用など、間接的にかかるコストを軽減し、ほかからの搾取ではない長期的な利益体質を実現します。
ECをブランディングする。それは「顧客にとって最良の体験とは何か」を突き詰めることです。このプロセスはのちにECプラットフォームや連携するSaaSツールの選択にも影響を与えます。 AI時代はさまざまな優れたテクノロジーやサービスが世に出現し、どんどん便利になってきました。その反面、どのツールを選ぶべきか、とても難しい選択になっています。「信頼されるブランド」であり続けるためには、適切にツールを選択し使いこなすことが必要です。それには、クリエイティビティやマネジメント力、理解力のような「人間らしい」能力がより重要になっていくでしょう。今回紹介したようなブランドは、まさしくこの「選択と決断」を実行し続けています。
では、ブランディングを実行に移すにあたって、社内ではどのような動きが必要なのでしょうか。次回はブランディングを実現するために「どういう人がどういう役割をすれば良いのか」を、具体的にお話していきます。