「らしさ」の象徴と信頼が利益を生み出す ビジネス視点で紐解くブランドとブランディング#連載「今こそ考え、実現する!ECとブランディング」第4回

「らしさ」の象徴と信頼が利益を生み出す ビジネス視点で紐解くブランドとブランディング#連載「今こそ考え、実現する!ECとブランディング」第4回

こんにちは、株式会社フラクタの松岡です。RI(Research & Implementation)局という、調査研究や社内教育などを行う機関に所属しています。前回は、ブランディングにおける適切な人材配置を取り上げましたが、今回はブランドとブランディングの基礎的な話をしていきます。

 専門用語は可能な限りかみ砕いて説明しますので、EC担当者になったばかりの人はもちろん、「ブランディングに興味はあるがよくわからない」という人にも読んでいただきたいです。

第3回▶︎成功する人材配置 それぞれの担当者が担うべき役割とは

香りや商品ラインナップもブランドの要素

 現在は、ブランディングの考えかたが応用され、さまざまな領域で用いられるようになりました。「セルフブランディング」や「自治体のブランディング」、そのほかいろいろとあります。ここでは、「ブランディング」がもともとは「ビジネス」であったことから、利益創造を命題とした経済活動に焦点を当てます。

 ブランディングがうまくいくと、売上や利益、他社からの信頼、競争優位性などに良い影響を及ぼします。また、副次的な効果として次のようなメリットがあります。

・営業活動の効率化

・採用活動の効率化

・人材育成の効率化

・リピーターやファンの獲得・維持コストの低減

・ビジネスの拡大や横展開の円滑化

 

なぜ、これらが可能となるのか。ブランドの特徴やブランディングのフローから紐解いてみましょう。

 そもそも、「ブランド・ブランディングとはなんぞや」と思っている人もいると思います。たとえば、Aという車のメーカーがあるとします。あなたが、車が欲しいと思ったとき、Aの名前やロゴ、車の特徴などを思い浮かべますよね。さらに、「なんとなく好き」「昔から家族で乗っているため馴染みがある」といった、何かしらのイメージを思い浮かべたなら、Aはブランドなのです。

 今お伝えしたことを図にしてみました。

 

 このように、何かしらの「象徴」から、すぐにイメージできる状態となっている店・商品が「ブランド」です。わかりやすくするために、図ではロゴA・B・Cと表現していますが、象徴がロゴであるとは限りません。ひとつのブランドを象徴するあらゆるものが含まれます。ロゴのほかには、ブランド名や商品の特徴的な部分、土地名、化粧品であれば香りや使用感など、「そのブランドらしいポイント」が該当します。

 雑貨ブランドがあり、その名前やロゴをはっきりと覚えていなくとも、店内における商品のラインナップや、店頭に漂う香りがそのお店らしい要素だと認識しているのであれば、それらも象徴にあたります。

 

ブランドが企業に何をもたらすのか

 では、「ブランディング」とは何かというと、「お店や商品をブランド化すること」というとらえかたが、もっともシンプルでしょう。

 ブランディングには「ing」がついているので、動的なイメージを内包する言葉です。すなわち、店や商品の象徴から何らかのイメージを想起させ、思い出してもらいやすくする、選択肢に入れてもらいやすくすること。これが、ブランディングです。

 

   「ブランディングがうまくいくと、何が起こるのか。そして、それはなぜなのか」をさらに深掘りしていきます。次の図は、ブランディングが企業に利益をもたらすフローを表したものです。

 

 

  7が、いわゆる「利益」です。最初は、「自分たちとは何者か、誰にどんな価値をもたらすのか」を定義するところから始まります。その定義に基づいて、2のような商品や店構えなど、ブランドの価値を体現する要素が形成されていきます。

 ブランドの象徴が形作られる3までを踏まえて、4で顧客の頭のなかに「このお店は◯◯な感じ」「好みの商品だ」といったイメージが形成されます。4のようなイメージが積み重なり、「このお店なら安心!」「◯◯な商品を買うならここ」といった信頼が育まれるのが5です。

 5の具体的な行動として、顧客が商品を継続的に購入してくれるようになる、ほかと比べて多少高価であろうと選んでくれるようになる6の段階に入ります。その結果として7の、顧客が他社製品より高くても購入したいと考えたときの「価格プレミアム」や、企業や事業の買収時に純資産とは別に計上される「信頼やノウハウなどの無形資産」など、資産的価値を高めることが可能となります。

 6で得た顧客からの信頼や愛着によって、他社よりも自社の商品を購入してくれる確率がぐっと高まり、競争優位性などが向上するわけです。

 

ブランディングができれば社内の機能も整う

 ブランディングが企業に利益をもたらすフローで、とくに重要なポイントがふたつあります。実際はたくさんあるのですが、そのなかでも絞りに絞りました。

 「一貫性」「象徴 - 信頼」です。

 ひとつめの一貫性。顧客の頭のなかでイメージができあがり、信頼を形成していくには、ブランドのどこを切り取っても「ブランドらしい」必要があります。ECサイトひとつをとっても、まずカートシステム選びから、ブランドにあわせて必要な機能の選定をしなければなりません。ビジュアル面などでも、そのブランドらしいECのありかたが問われるようになるのです。

 ポイントふたつめは、「象徴」を使用しつつ、「信頼」を積み重ねるステップを経ること。「象徴」と「信頼」のふたつが作用し利益をもたらすスタイルが、ブランドおよびブランディングの特徴でもあり、欠かせない要素でもあります。

 ブランディングは象徴と信頼を経由した特徴的なルートをたどって利益を生み出すと同時に、一貫性が大事だともお伝えしました。ここまで自分たちの活動をコントロールできるようになると、必然的にブランド(企業)内のあらゆる部分が整ってきます。

 目指すものや自分たちの強み、何をすべきなのか、逆に何をすべきでないのか、といった「自分たちらしさ」が明確になってくるのです。人間の身体と同じように、整うと楽になってきます。それがこの記事の冒頭に挙げたような、「営業活動・採用活動・人材育成の効率化」などにつながるわけです。

 また、ブランディングによって、商品の機能や価格以外の側面でも魅力をアピールできるようになります。お店の雰囲気作りや顧客にとって魅力的なメッセージの発信など、さまざまな手法を駆使することで、「リピーターやファンの獲得・維持コストの低減」が可能となります。

 さらに、ひとつ強力なブランドを育て上げれば、それを軸にさらなる展開がしやすくなります。たとえば、すでに高級志向のブランドがあり、そこからふたつめのブランドを立ち上げる場合。ひとつめのブランドの高級なイメージを維持しつつ、ふたつめのブランドを少し低価格で展開することで、企業全体として顧客層の拡大を図ることができます。

 現在、「ブランド」および「ブランディング」という概念は、扱う領域の広さや時代の流れに影響を受けやすいことから、さまざまな解釈がされています。しかし、今回お伝えしたようにとらえていれば、間違いはないでしょう。チーム間の共通認識として、お役立てください。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございます。次回は、「現代のリテールビジネスをどうやってコマース全体に適応させるか」というテーマでお話していきます。

 最終回▶︎顧客の期待と懐疑心、そしてブランドに求められる一貫性