色を通じてブランドを考察してみた-第4章〈味覚〉

色を通じてブランドを考察してみた-第4章〈味覚〉

こんにちは!FRACTA Research & Implementation(RI)局の島田です。

色を通じてブランドを考察してみたー序章として、ブランドに印象付けられた色と「五感」の関係について考察をスタートした本シリーズ。今回は4章目として、「味覚」にフォーカスしてみます。

「味覚」は1章目、2章目、3章目で触れてきた「視覚」「聴覚」「触覚」のどの感覚よりも知覚の割合が低く、全体のほんの1%なのだそうです。(『産業教育機器システム便覧』p.4 教育機器編集委員会編.日科技連出版社:1972年)
これまでは視る、聴く、触るというように、どちらかというと対象物の表面を感じる行為に近かったように思います。今回取り扱う「味覚」は体に取り込み、胃の中で消化する前の最終的な判断をする感覚でもあることが、今までと少し異なる点です。(こちらのサイトで詳しく紹介してくださっています。)

 

その色はどんな味?

甘い、塩っぱい、酸っぱい、苦い、辛い、渋い…
舌で感じることができる「味覚」にはこのようなものがあります。

実際に画面上の色を視て「味覚」を感じることはできないのですが、前章の「触覚」と同様に、私は「視覚」で捉えた情報と個々の経験が紐付き連想されて、まるで味を感じるように思えるのだと思います。

どのような味がするかは、今回も私の経験を交えた考察となるため、好みによっては同じように感じられない可能性もあります。画面上の色彩から感じ取れる味を一緒に考えながら読み進めてもらえると嬉しいです。

それでは、今回もFRACTAが伴走したブランド事例を見ながら分析していきましょう。

 

丁寧に育まれた梅本来のやさしい味

蝶矢 | CHOYA shops株式会社

創業から100年以上に渡り、梅の魅力や新たな発見を提供し続けているチョーヤ梅酒株式会社の知見を生かし、体験を軸とした梅の新市場を創造することを目的として2018年に立ち上がりました。体験を通じて現代のライフスタイルに合わせた梅の新たな価値を創造しています。

実績紹介ページ▶︎梅の文化を継承させていく。「体験」を実装させたECサイトリニューアル


https://choyaume.jp/

全体的に柔らかな色彩が用いられ、中央の梅の果実の赤みを帯びた色が引き立つ構成です。この画面に使われた色を見ていきましょう。

まず目に飛び込んでくるのは、鮮やかな赤みを帯びた梅の果実。私はこれまで、梅といえば黄緑色に近い色だという印象を抱いていたので、赤みを帯びているというだけで「甘さ」を感じることができました。

赤色やそれに近い色の果実を思い浮かべてみます。苺、林檎、さくらんぼがぱっと思い浮かびますが、どれもほんのり優しい甘さですね。色と紐づく味覚をまさにここで想像していたのでした。

梅の果実と一緒に、少々大粒の白色や薄い桃色、黄緑色といった柔らかな色合いのこんぺい糖が瓶詰めされています。こんぺい糖は名の通り甘く、グラニュー糖を原材料として作られています。こんぺい糖はいずれ溶け、梅の果実と合わさり甘い甘いシロップになります。

甘みを感じるオレンジ色や赤色を帯びた果実と、柔らかな色合いのこんぺい糖、この要素だけで「果実的な甘さ」を想像することができます。

一方で、「梅」と聞いて梅干しを想像した方もいるのではないでしょうか。口の中が一気に酸っぱく感じられますね…!これも体験と記憶の紐付けです。しかし、ここでは梅干しに使われている塩ではなく砂糖が材料となるため、一旦その思考はしまっておきましょう。

少々それましたが、視点を画面に戻しましょう。白みがかった薄香色*が中央の写真を囲むように配置されています。そして梅シロップキットのボックスを配置した背景はグレーがかった柔らかな色彩で、梅の果実とこんぺい糖を瓶に詰めている人の服のパキッとした白色とのコントラストが生まれます。しかしそれは大きく色彩に差をつけるわけではなく、手に持つ梅の果実や透明感のある瓶詰めそのものを引き立たせる役割があると考察します。また見た目だけでなく、その味も引き立たせてくれるのではと思います。
*薄香色:白茶に少し赤みがかった薄い茶色

この画面から、私は「柔らかさとフルーティーさを備え持った甘さ」が味わえそうだと想像したのでした。

ABOUT CHOYAにはこのようなメッセージが掲載されています。 

“日本の梅文化を現代的なスタイルで提供し、「大切な人とのつながりを育む文化」として発展させるべく、革新を続けながら伝統文化を守ってきた古都、京都・鎌倉から世界へ発信していきます。”

 

梅シロップ作りを日本の伝統文化の1つとし、梅体験を通じて伝統としての「守り」と次世代への「革新」を続けています。個性ある梅と砂糖が組み合わさってシロップが抽出される過程や、出来上がった梅シロップの味、そして色を楽しみながら伝統文化に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

大自然の恵みを閉じ込めた泡盛

米島酒造 | 米島酒造株式会社

1948年に沖縄県の久米島で創業した泡盛酒造所です。久米島の豊かな自然の中で、造り手の丁寧な手作業により造酒されています。

実績紹介ページ▶︎久米島の自然や環境を表現。想像を掻き立てるECサイトの実現


https://yoneshima-shuzo.co.jp/

画面をスクロールダウンしていくと、下の画像のように画面いっぱいに景色が広がります。全部で4パターンの表示がありますが、今回はどこまでも続く青い海のパターンで分析をしてみます。

上の画面では、薄いグレートーンの背景をベースに、中央に久米島の海の景色が、島の形に切り取られています。スクロールダウンしていくことで、島の中に写された海の景色が次第に広がるとともに、背景のグレートーンが左右上下に捌けていき、下の画面のように移り変わる、という仕組みになっています。

青い色に、どのような味のイメージを持ちますか?少し考えてみましょう。
シュワっと弾けるラムネの味、海のちょっと塩っぱい味、かき氷のブルーハワイの甘い味、ブルーベリーのさっぱりした甘い味…すっきりした、また甘い、という味のイメージが挙げられます。

実際に青い色をもつ食べ物、と考えると少し難しいので、先ほど挙げたような「青」から連想するイメージと米島酒造で取り扱うお酒「琉球泡盛」を掛け合わせて考えてみましょう。まず色のイメージです。「青」という色は、このように考察されています。 

“ブルーという色は強い刺激を与えることなく、リラックスしたり頭をすっきりさせたり、内省したりするのを促す。”
『配色デザイン カラーパレット』p.135 サラ・カルダス(著) 百合田香織(翻)(株式会社ビー・エヌ・エヌ:2021年)

 

この考察の中の「リラックス」と「すっきり」という表現は、まさにスクロールダウンした後の久米島の海の景色とマッチしています。手前の淡い色合いから地平線に向かって次第に深くなる青色と、空や雲が織りなすやや彩度の高い青色、海と空という自然が作り出した双方の青色がどこまでも続く爽やかさと透明感を感じさせます。また船が一隻浮かんでいるだけの障害物のない広い海は、ゆったりした時間を想像させます。さらに青色の絶妙なグラデーションからは繊細さも感じられるようです。

続いて、泡盛の風味に焦点を当てます。泡盛は20度〜40度前後の比較的アルコール度数の高いお酒です。米を原料とし、黒麹菌や酵母の発酵の効果により、香り高い濃醇な味わいが特徴です。私が泡盛をいただいた時の記憶では「こくのある甘さ」を感じたように思います。

私は色のイメージと泡盛の味の実体験から、「こくのある甘さの中にも、すっきりした透き通るような繊細な味」を思い浮かべることができました。

米島酒造のこだわりでは、泡盛の造酒の工程や、久米島の恵まれた自然環境について触れることができます。造酒の過程やその土地の自然環境を知ることで、より米島酒造の泡盛が味わい深くなるのではないかと思います。

 

幸せな甘さを、一緒に

Dandelion Chocolate | Dandelion Chocolate Japan株式会社

2010年に米国サンフランシスコで創業したBean to Barチョコレートのファクトリー&カフェです。カカオの買い付けからチョコレートができるまでの焙煎や成形、包装まで全てお店で行っています。

実績紹介ページ▶︎味わい深い商品のおいしさを表現したサイト統合リニューアル


https://dandelionchocolate.jp/

ケーキクーラーの上に積み重なる3種のクッキー。画面を見ているだけでもふんわり甘い匂いが漂ってきそうですね。画面手前にはコーヒーが入ったカップアンドソーサー。そして奥にはシナモンスティックが見えます。早速画面上の色を考察していきましょう。

背景と台はやや淡く明るいグレーをベースにしています。クッキーが積まれたケーキクーラーは黒です。画面全体が淡いグレーや茶系の色味で構成されているため、画面全体を引き締めるような役割があると考察しました。
クッキー3種は左からチョコチップのクッキー、チョコをふんだんに使用したクッキー、そしてカカオニブ*を混ぜ込んだクッキーです。(商品ページ参照)濃い茶色のチョコレートクッキーを中心に、両端のチョコチップクッキーとカカオ二ブクッキーを配置することで、似た色の連続を避け3種それぞれを主役として引き立たせているようです。
*カカオニブ:カカオ豆を焙煎して細かく砕いたもの

クッキーの色から味を想像してみましょう。といっても、すでにクッキーやチョコを食べたことがある方も多いのではないかと思います。私の体験ではクッキーは「ふんわりと優しい甘さ」、チョコレートは「濃厚なカカオの風味が加わった、少し重みのある甘さ」という印象です。このようにどちらも「甘い」という味覚が画面上のクッキーからは容易に想像できてしまうのではないかと思います。もう少しその「甘い」を色とともに掘り下げてみましょう。

一番左のチョコチップクッキーは、その生地の黄金色から「優しい甘さ」を感じられるようです。混ぜ込まれたチョコチップと合わさり、チョコレートの茶色から想像される甘さがアクセントとして感じられる味のように思えます。中央のチョコレートクッキーは、正にチョコレートの色です。全体が茶色であるため、左のチョコチップクッキーよりも「チョコレートの風味が楽しめる味」であると想像できます。そして右側のカカオニブクッキーは、左側のチョコチップクッキーよりもチョコレートの茶色が占める色合いが少く、「甘さは少し抑え気味でカカオニブのほろ苦さも少し感じられるかもしれない味」というような想像ができました。

クッキー3種に加えて、手前に配されたコーヒーと奥に写るシナモンスティックも交えた考察をしてみたいと思います。

まずコーヒーです。コーヒーには苦さがありますが、甘いものを食べた際に一緒にいただくコーヒーはその甘さを落ち着かせたり、はたまた際立たせたりすることがあります。そして奥に写るシナモンスティックは、クッキーに使われている材料の一つです。これ自体にはあまり味はなく、どちらかというと香りを楽しむスパイスの一種で、甘い中にもスパイシーな香りがします。嗅覚を通して風味を際立たせる役割です。コーヒーとシナモンスティックも、この画面に写るクッキーの味を引き立てバランスを取る影の立役者というわけです。

ここまでの考察で、この画面から感じる味は「優しい甘さと濃厚な甘さとのバランスが取れた幸せな味」なのではないかと想像しました。私自身がチョコレートやコーヒーが好きなので「幸せ」と表現してしまいましたが、味だけを表しているだけではなく、クッキーを食べ、コーヒーを飲んで過ごす時間も一緒に味わって、「幸せ」と感じるのだろうなと思ったのでした。

OUR DAYSでは、チョコレートの原材料であるカカオの話をはじめ、チョコレートを味わい、楽しむヒントなどが掲載されています。読み進めながら奥深いチョコレートの世界を知ることができそうですね。

今回取り上げた3つの例では、赤みを帯びた色に「果実的な甘さ」、青色のグラデーションから「甘さの中にもすっきりとした透き通るような繊細な味」、茶色いチョコレート色には「幸せな甘さ」をそれぞれ想像してきました。

一方で、例えば茶色は他の食材の色でもあります。「香ばしさ」や「しょっぱさ」を感じる醤油が塗られた煎餅、スパイスの効果で「後を引く辛さ」を感じるカレーが挙げられます。

実際に口に含んで経験した味覚情報、そして記憶に残っている視覚情報が目の前に写された食べ物や景色を表す色の印象とを密接に結びつけているのだということを、今回の考察を通じて改めて感じたのでした。

 

食材の当たり前の色…?

今回取り上げた事例は3つとも、食品や飲料という「嚥下されて体に取り込まれるもの」でした。どの事例も、自然の色や食材そのものの色を活かした色彩使いでしたね。

その一方、経済の発展や技術が進歩する中で、食材が美味しいと感じる色に染色されていた事実があります。この視覚操作がされてきた時代の背景や移り変わりを紐解く書籍に出会いました。『視覚化する味覚 ー 色を彩る資本主義』〔久野愛(岩波書店:2021年)〕です。

本書で印象に残った一文をご紹介します。

人工的に作り出された世界が自然の一部となり、技術者や科学者、マーケター、農業生産者、政府関係者、消費者ら様々な人々が拮抗しあう中で、新たな自然感が生み出されて来たのである。

 

どのように見せたら甘そうに視えるか、どのように陳列してライトを当てたら新鮮に視えるのか、またどうしたら売れて多くの人々の手に渡るのか、といった視点で着色や熟成といった試行錯誤が繰り返されるうちに、それが今私たちが視ている「自然な」状態になっていったのだそうです。

買い物に出かけた先の食品売り場で改めて食材を眺めて、どのような光が食材に当たると美味しそうに視えるのだろう?、散歩途中で見かけた畑に実る野菜を暫し眺めながら、自然の色と新鮮な色とは一体何なのだろう?と思考を巡らせるなど、改めて自分の体に取り込まれる食材の色と味覚を考えるきっかけになりました。

今回は、実際には味わうことができない画面上から色彩情報を通して感じられる「味覚」を考察してきました。実際の経験から、私と違う「味覚」を捉えた方もいらっしゃると思います。

既に食べたことがある、飲んだことがある、というものが多い中で、画面全体から感じられる風味を考えるのは非常に面白い試みでした。

 

いかがでしたでしょうか?
次回は、ついに最終章です。色が与える「嗅覚」について考察していきます。お楽しみに。