おはようございます、こんにちは、こんばんは。FRACTAのアートディレクター / デザイナーの間部です。
今回はFRACTAでサポートさせていただき、先月ローンチした米島酒造さまのブランドサイトについて、キックオフ→プランニング→デザインまでを、どのように進めていったのか、制作の裏側を交えてお伝えしたいと思います。
基礎情報
クライアント:米島酒造
サイトタイプ:ブランドサイト兼ECサイト
制作期間:5ヶ月
■ FRACTA スコープ
ビジネスプロデュース:高埜
ディレクション:米田
プランニング:加藤・松崎
アートディレクション&デザイン:間部
実装、構築:プロトソリューション
商品撮影:船田 聖
久米島撮影 :照屋 恵太 (Photo Studio Noah)
料理提供 :戸嶋 晃太(CYPRESS RESORT KUMEJIMA)
食器提供 :宮良 耕史郎(五え松工房)
■使用tool
slack, Google Meet, ZOOM, Miro, Google Sheets, Keynote, Github
01. 案件概要
米島酒造は創業74年(2022年現在)、1948年創業の家族経営の泡盛酒造所です。代表の田場俊之さんは4代目で、久米島蛍が生育する白瀬走川の良質な水を利用した泡盛を昔ながらの製法で作り続けています。大量生産を行っておらず、久米島島内での消費が多く、沖縄本島にもあまり出回らないため、とても希少なものが多くあります。
そんな米島酒造様から、ECサイトのリニューアルのご依頼をいただきました。
東京から久米島までの距離は約2200km、勿論撮影以外はフルリモートで制作になりました。
依頼について
背景に持っていた課題としては、主に2つありました。
そこでShopifyでのECサイト構築に強みをもち、ブランディング強化支援も行えるFRACTAを見つけていただき、お問い合わせをいただきました。
プロジェクトの目的を米島酒造様ブランドサイトを「ブランディング」と「売上貢献」、 2点を兼ね備えたプラットフォームへ進化させることと定義し、プロジェクトがスタートしました。
02. ブランド体験→プランニング
個人的にはオリオンビールは大好きですが、元々お酒があまり強くないのもあり、アルコール度数の強い蒸留酒にあまり馴染みがなかったので、まずは泡盛の語源を調べるところから始めました。
そこから泡盛と焼酎の製造方法の違いや、蒸留酒と醸造酒の違いや製造方法、泡盛の歴史を調べていくうちに、久米島・琉球王朝の歴史などを掘り下げていき、泡盛のバックグラウンドを徐々に理解していきました。
FRACTAでは案件に入る前に、プロジェクトメンバー全員でブランドの商品を体験し、それをまとめるブランド体験というフェーズを行っています。今回はFRACTA期初に実施した全社会とブランド体験が同じタイミングだったので、その時にプロジェクトメンバーで牡蠣と泡盛のセットを注文し、試食させていただきました。
牡蠣の殻を剥がすのに四苦八苦しながら、泡盛も試飲。そこでは「度数が高いのに飲みやすい」「スッキリしているので他の料理とも合いそう」「生牡蠣との組み合わせもバッチリ」という声が多く上がり、社内の他のお酒好きのメンバーにも大好評で、あっという間に泡盛と牡蠣が無くなりました。
後日、それぞれが感じた感想を洗い出し、プランナーを中心に3C分析のフォーマットを使い、ブランドの核となる強みを絞り出していきます。
核にある強みとしては、こだわりの製法・豊かな自然環境から生まれる「酒質」と「希少性」といった他社でもよく打ち出されているものに加え、独自の要素としては、「上質」、「飲みやすさ」などの要素となりました。
「酒質」と「希少性」といった機能的価値はデザイン面で打ち出していき、それに加え「上質」、「飲みやすさ」といった情緒的価値はコンテンツで補っていくことで「泡盛のある余白のある時間や、暮らし」を新たに訴求していき、機能的価値と情緒的価値の両面から潜在する米島酒造さんらしさを見せていくという方向性が決まりました。
ブランドの強み・価値を掘り下げ、コンテンツの大まかな方向性が決まったところで、サイトマップとワイヤーフレームに落としていきます。ワイヤーフレームはプランナーの加藤がコンテンツ案を考えながらご提案させていただきました。
また、ECプラットフォームShopifyの導入にあたり、現状の課題の策定から運用の効率化へどのようなアプリ・テーマを選定し、カスタマイズして実行していくのかを、ディレクターの米田を中心に進めていきました。
03.デザイン
前段の設計がかなり固まってきたところで、いよいよデザインに入ります。海外のサイトを含め、参考として50以上のお酒のWebサイトを見ましたが、特に日本酒のサイトは質実剛健な重厚感のあるトーンで、杜氏のこだわりや気質を前面に出したものが多く、縦書き、明朝体、筆文字など、和の要素を全面に押し出したデザインが多い傾向にあり、余白を多く取り、重厚感のある写真の上に明朝体で縦書きでコピーを書くのが一定のセオリーなように感じました。
しかし、環境や製法へのこだわりを可視化したビジュアルは、他の酒蔵も行っているため差異が作りづらく、米島酒造さんのアイデンティティを示すには、物足りないと感じました。
デザインで主に打ち出していきたいのは先述した通り、「酒質」と「希少性」です。その2つを示すには米島酒造のアイデンティティを深堀りしていき、「久米島の豊かな自然環境」「こだわりの製法」「上質さ・飲みやすさ」「4代続く家族経営」という4つの要素をデザインで感じさせたいキーワードとして、「洗練・質実」「自然」「温かさ」といったキーワードに分解させていきました。
当初はECサイトということや、「泡盛のある暮らしを想起させる」という目的もあり、メインビジュアルはShopifyの元々のテーマを活かした、落ち着いた雰囲気のシンプルなスライドショーを考えていました。
しかし、当初のヒアリングシートの中にあった「もっと見た人の想像力を掻き立てるサイトにしたい」という田場さんの言葉が残っていたので、本当にこれでいいのかと言う疑問がありました。そこで、再度ブランディングフォーマット(FRACTAのブランディングフォーマットについてはこちらをご参照ください)やMTGの議事録、旧サイトのブログやSNSで発信している内容を徹底的に見直していきました。
すると田場さんは酒造りや、「お酒を媒介したコミュニケーション」、「お酒を飲んだ時の気持ち」、そして「お酒というプロダクトそのもの」に対して、「浪漫」というワードをとても大事にしているような印象を受けました。
「洗練・質実」「自然」「温かさ」に加え「浪漫」というもう一つのエッセンスをデザインで加えることにより、より米島さんらしいデザインになるのではと考えました。
そこでもう一案、「浪漫」に思いっきり振り切ったメインビジュアルを考え、制作していったのが採用されたビジュアル案です。
4枚のスライドショーをベースに、お酒のボトルと久米島のシルエットで繰り抜いた自然風景写真を重ね、その裏には"YONESHIMA DISTILLER FROM KUMEJIMA ,OKINAWA"のテキストアニメーション、さらに最背面にはもう一枚モノクロの風景写真を重ねて、米島酒造のバックグラウンドが4つの層になっているビジュアルです。一番上には「人生を、豊かなものに」と言うメインコピーが掲出。こちらは米島酒造のビジョンをそのまま活用しています。
そして、MVをスクロールをすると中央の久米島のシルエットが広がり、風景写真の上にコンセプトが重なる”という、アニメーションのアイデアが出てきました。
特にスライドショーの最初にはブランドの象徴的な商品である、"美ら螢"を見せ、米島酒造様のお酒の特徴である水と、ロゴの蛍を生かしたビジュアルを最初に見せることでブランドの象徴的なビジュアルとなるようにデザインしています。
"星空”や”青い海”、”深い森の中”といった久米島の自然風景をお酒の特性に合わせてセレクトしましたが、雄大な風景写真には人の想像力をかきたてる余白があり、その背景が広がっていくアニメーションは、お酒を飲んだときの楽しさや華やかな気持ちを表現しています。
その他にも、さまざまな箇所に米島さんらしさを表現するアイデアとしてデザインに変換させていきました。
書体の選定は、ブランドを体現するのにとても重要なエレメントの一つです。欧文には、ロゴの筆文字との親和性も感じさせ、サーフブランドのアイテムなどに使われる"Debby”という書体を使うことで海の雰囲気を演出しています。Debbyは小さい箇所などにはあまり適していないので見出しや商品名のみの使用にとどめ、可読性が問われる場面ではセリフ体にCrimson Textを設定、日本語はZen Old Minchoをベースに、説明的な箇所はヒラギノを使いウェブフォントの使用を抑えています。
下層ページのデザインにおいても、トップページの上質でモダンな要素を引き継ぎ、半円のサムネイルや縦書きのタイポグラフィーなどを効果的に使い、余白を十分に取ったレイアウトで、上質さとモダンなデザインに仕上げました。ブランドカラーの紫は、昔からエイサーの民族舞踊衣装や泡盛を保存する甕を覆う布に使われていたり、琉球時代から沖縄では重要な色となっています。そこで紫がブランドの象徴的になるようにカラーリングを設定し、色面を引いて大きく見せたり、英語タイトルとして大きく見せたり、ハンバーガーメニューとして常に表示させたり、紫のサイトという印象を強めています。
04.撮影
順調に下層ページのデザインも固まってきたところで、クオリティを左右する絵作りのブラッシュアップへ入ります。
元々写真素材は、ご提供いただいた写真が多くあり、デザインカンプには提供素材を使っていました。しかし、コンテンツによってはこういう写真が欲しい、ストック素材では補えない、よりブランドのイメージを強く表現する為にはプロのフォトグラファーが撮影した品質のものが必要だということになり、ご予算を相談の上、久米島でのロケと東京での商品撮影が決まりました。通常はご予算をお聞きして、先に撮影するかどうかを決めていきますが、作りながら決めていった今回はとても稀なケースです。
投資していただいている予算を、Web用の素材だけでなくブランドの資産にもなるようなビジュアルにするべく、どのようにしたらそれを最大化できるのかギリギリまで写真の構図を考え、香盤表を組み、8月の終わりにディレクターの米田と久米島に向かいました。
我々に残された時間は2日間のみです。
久米島空港に到着し、レンタカーで酒造所へ向かいました。毎週オンラインでMTGはしていましたが、やっと田場さんご本人と対面することができました。
まずは、クラシックが流れる酒蔵の中を見学した後、次の日の撮影のロケハンとして一日かけて時計回りに島内をぐるっと一周しながら、さまざまな場所を案内していただきました。”比屋定バンタ”、”宇江城城跡”、”てぃーだ橋”、"シンリ浜"、”イーフビーチ”、”アーラ浜”、"畳石"など、時に白瀬川の源流を探して山の茂みを中をひたすら歩いたりしながら、撮影場所を絞っていきました。
突き抜けるような青い空と透き通るような海、島々を覆うようなさとうきび畑にざわざわと生い茂る木々、ゴツゴツした巨大な岩にカラフルに咲く花、潮と植物の混じった風の匂いなど、自然の野生味にただただ圧倒されるばかりです。
信号が3つしかない島内を回りながら、車内ではこれまでMTGでは話せなかった沢山の情報を教えていただきました。久米島は車海老の養殖が日本一の生産量であることや、気候的にさまざまな農作物が栽培でき、地場産業が盛んで観光に頼らなくても島内だけで経済が成り立っていること。その為他の離島に比べ、外部に情報を発信できていないことに少し危機感を覚えていること。台風が来ると5日以上船が来なくなり、スーパーから物資がなくなること。地理的にゴミが漂流しやすいこと。(プラスチックごみの海洋汚染についてもとても考えさせられました。)
また、次の代を継ぐ息子さんへの想いなど、たくさんのお話を聞き、こういった雑談の中に制作のヒントが溢れているので、やはり対面で会うことの大切さを感じました。
個人的に19年前に一度旅行で来たことがあるのですが、その時より深く空気や匂い、人の温かさなどに触れることができ、全く違う印象を持つことができました。
そして次の日は撮影日。フォトグラファーの照屋さんに沖縄本島から来ていただき、宿泊先のゲストハウスでイメージカットの撮影をしていきました。
午前中は、料理や食事のシーン、庭でのアウトドアシーンなどを撮影していきました。(ディレクターの米田もモデルとして稼働しております。)
撮影に使った料理や食器は、田場さんのご友人である、サイプレスリゾートホテルの戸嶋さんにお料理を、木工作家の宮良さんに木製の食器をそれぞれご協力いただきました。(撮影に使用したお料理は、ランチとして美味しくいただき、その味もおいしかったです・・・!)
午後は、昨日ロケハンをして絞り込んだポイントでさまざまな自然風景や風景とボトルを組み合わせたイメージカットなどを撮影しました。夕方に一度ゲストハウスに戻り、リラックスしながらソファーで泡盛を嗜んでいるシーンなどを撮影、最後は急いで飛行機の見えるシンリ浜で夕焼けをバックにした撮影で、全撮影が終了です。
この日の終わりには地元の居酒屋さんでご友人の方も含めた打ち上げをさせていただきました。ご友人の方が、「酒造りをしている本人からお酒を作っていただけることなんてない」とおっしゃっていましたが、本当にその通りです。米島酒造のラインナップの中で、一番高級な" 刻楽”も飲ませていただきましたが、本当に美味しくてじっくり味わわせていただきました。。
沖縄ロケから帰ってきた次の日、東京での撮影はフォトグラファーの船田聖さんの事務所兼スタジオでの撮影です。船田さんは、LAQ2という案件でもお世話になった方で、クリアな商品写真から人物までさまざまなトーンに柔軟に対応いただける方です。この撮影には東京の大学でお酒造りを学ばれている5代目の成海さんも立ち会っていただき、商品の撮影を行っていきました。
撮影の内容はシンプルな商品撮影がほとんどですが、MVに掲出するボトルの写真には特別なライティングを施したり、ブランドのイメージカットも数点撮っていき、僕らの想定を超える素晴らしい写真を撮っていただきました。
05.実装
実装はプロトソリューションさん。FRACTAではよくお世話になっている沖縄のパートナーさんですが、以外にも地元企業の案件を担当することは少ないらしいので、特別な感情もあったそうです。
コーディングが外注になる場合、最初のテストアップのクオリティがかなり品質を左右しますが、初稿の段階でかなり品質の良いものをあげていただいたので、その後の修正、機能実装も難なくご対応いただき、あまり機能的なバグも少なく、その後の調整に余裕を持って時間を取ることができました。
特にMVのアニメーションがかなり重要だったので、ア二メーションの速さやタイミング、マージンなどをオンラインで画面共有しながら、細かく調整をしていきました。他にも僕の細かいリクエストにも素早くご対応いただき大変助かりました。
06.まとめ
こうして沢山のご協力をいただき、プランニングから構築まで約5カ月間に渡る工程を経て、ブランドサイト兼ECサイトが完成しました。ローンチの数日後には、今年から始まった「第1回酒屋が選ぶ焼酎大賞」の泡盛部門で、米島酒造の「星の灯」が見事大賞を受賞!という嬉しい報告もありました。(おめでとうございます!👏)
撮影から実装までの時間がかなり短かったり、リモートで運用面をサポートするなど苦労した点も多々ありましたが、プロジェクトが完成するにつれ、こんなに完成するのが寂しいと思ったことはなかったかも知れません。
個人的なことですが、日本のブランドを世界に発信すると言う理念に共感してFRACTAに入社したので、すぐにこのような自分の得意分野を生かせる仕事にアサインされたことはとても幸運でしたし、距離の遠く離れたお客さまでも、対話と重ねることでデザインをブランドの力強い資産に変えていくことに繋げることができとても嬉しく思います。もちろん米島酒造さんの泡盛も、とても美味しいので是非ご購入の方を検討ください。それでは最後までお付き合いいただきありがとうございました。