こんにちは!FRACTA Research & Implementation(RI)局の月森です。
ブランディングの過程で、プロジェクトに関わる多様なメンバーが自分たちの中から強みや共通の思いを見つけていく「共創」の場であるワークショップ。参加者全員が「自分ごと化」として捉えるための工夫を「場づくり」の観点から考えてきた本シリーズの最終回です。今まで「グループサイズ」「レイアウト」について考えてきましたが、最終回ではその他周囲の環境などで工夫できることについて考えてみたいと思います。
▶「共に創る」ワークショップのつくりかた #01:グループサイズから考える
▶「共に創る」ワークショップのつくりかた #02:レイアウトから考える
非日常の演出が共創の追い風に
第2回でも少し述べましたが、ワークショップでは「非日常」を演出することがポイントだと思います。新たなアイデアや答えを生み出していくために、普段の会議よりももっと創造的で、多様な人々が自分自身を発揮できる必要があるからです。
新鮮な環境で、ちょっと肩の力を抜くことができるような雰囲気もある中では、心理的安全性も高まり、意見を言いやすくなったり、リラックスしているからこそ自由な発想ができるのだと思います。また、意見を述べる時以外にもポジティブな効果があるかもしれません。
例えば、他の人の意見に賛成/反対する時を考えてみましょう。堅苦しい雰囲気の中では真剣に考えすぎてしまい、つい「断定系」や「否定系」など強い語調を使ってしまいがち。ですが、やわらかい雰囲気の場では友好的な言葉遣いや、前向きな言い方がしやすくなるかもしれません。その場で聞いている人たちもポジティブな気持ちになり、多くのメンバーが参加しやすくなると考えられます。
ただし、やみくもに取り入れて非日常を演出すれば良い、というわけではありません。 非日常感はあくまでも創造力を掻き立てるために用いるものであり、ワークショップの中ではアイデア出しなど、新たな発想が求められる場面もあれば、集中して議論を整理し結論を導くような場面もあるので、場面に応じて使い分けることが重要だと言えるでしょう。
また、参加者のタイプにも配慮する必要があります。 例えば、普段と同じ環境の方が集中できてアイデアを出しやすい人や、日常的にカジュアルでリラックスした環境で働いている人にとっては、各種演出は「非日常」とは感じにくいかもしれません。
このように、状況に合わせて、効果的に非日常の演出を使い分けられると良さそうです。
ワークショップの環境面でできる工夫
それでは、環境面で工夫できることを考えていきたいと思います。
①音楽(BGM)
まずは、音楽が活動に及ぼす影響についての研究をいくつかご紹介します。
1つ目は、こちらの記事。
適度な音がある環境の方が無音よりも集中力が高まり、特に創造的思考に有効であるという研究結果があるそうです。特にコーヒーショップでの周囲の話し声に相当する程度の音がある環境が最も創造的思考能力を高めるのでは、とも書かれています。
確かに、筆者も何か考え事をする時やアイデア出しをする際、カフェなどで作業すると捗るような気がします。単に気分転換になる……だけではなく、理由があるのだなと納得しました。
もう1つ、こんな研究も。
研究では、歌詞のある音楽はその処理に言語的な作業が妨害されやすいことが示唆されており、作業への影響範囲は自己コントロール力の高さにより個人差があるそうです。一方、歌詞のない音楽や音楽がない環境の場合、普段音楽を聴きながら学習する習慣がない人は、作業に好意的な印象を持ち、その習慣がある人は音楽がある、特に歌詞のない音楽がある場合に好意的な印象を抱くそうです。
また、「作業に集中できたかどうか」については、歌詞がある音楽はスコアが低いものの、音楽がない場合と歌詞のない音楽の場合とでは、あまりスコアに差がないという結果も述べられています。ちなみに筆者もアイデア出しをする時は歌詞なしBGMがある方が捗る派です。
さらに、前向きな気持ちになる音楽を聴いた人は創造力が向上したという調査結果(*3)もあるそう。これらを踏まえると、自由な発想でアイデア出しをする場面では、BGMを利用してみるのも良さそうです。ただし、以下のようなポイントを押さえているものがベターなのかもしれませんね。
- 前向きで明るい曲調
- 歌詞がないもの
- 音量は大きすぎず、落ち着いた雰囲気のカフェで流れている程度にする
また、人は音楽が流れていると自然に雑談をし始める傾向があるとのこと。開始前や休憩時間にもBGMを流すことで、参加者同士が打ち解けるきっかけも作れそうですね。
②照明や窓の有無
ここでも、1つ記事を紹介します。
こちらは証明や映像の観点から、オフィス空間の研究について述べられています。記事によると、白くて明るい照明はやる気や緊張感を高める一方、電球色で少し暗い照明はリラックス効果を高め、想像力を豊かにする効果が期待できるとのこと。
また、擬似窓を用いた実証実験も行われており、「山」や「海」などの自然の風景を表示する擬似窓を取り入れた空間では、窓がない空間に比べて「リラックスできる」「集中できる」などの印象が強くなるという結果になったそうです。
確かに、例えば窓がなかったり地下だったり、閉鎖的な空間に集められてアイデアを出そう!と言われても、なんだか息が詰まって自由な発想は生まれてこなそうだなと筆者は思います…。
照明はインテリアを選ぶ際にもよく用いられる話かと思うのですが、「創造力を掻き立てる」という観点では、ワークショップの場でも工夫する要素の1つにできそうです。
ワークショップの場においては
- ワークショップの目的や場面に応じて「照明」を選択してみる
- 「窓」がある部屋を選ぶ:
窓がない場合は擬似窓に見立てて、自然の風景の写真を飾る、映像を流してみる、緑を取り入れてみる
などの工夫ができるかもしれません。ここまで仕込むと、かなり本格的な準備が必要になりますが、窓の有無や照明は会場選びの基準の1つにしていただけるかと思います。
③アクティビティの工夫
ワークショップの中で行うアクティビティ(活動内容)でも工夫できることがありそうです。
例えば、自分の意見や選択を示す場面を想定した時、
- カードの色で意思を示す
- 場所を移動して回答してもらう(YESは右、NOは左など)
などの回答方法を取り入れることが考えられます。カードの色であれば、なぜその色を選んだのか、それぞれの理由も聞いてみることで、新たな発見があるかもしれません。
場所を移動する回答方法は、「意見を言い合いましょう」という場合では発言しにくい人でも、どこかしら物理的に位置を取ることで何らかの意思を表明することができます。これは、参加者全員が自己表現することにつながるのでは、と筆者は考えます。いる位置(真ん中なのか端なのかなど)によってもNO寄りのYESなど、細かな意見のニュアンスを確認し合えるので多様な考えを引き出すことに役立ちそうですね。
また、多くのワークショップにおいて、グループで意見を出し合う場面があるでしょう。個人で意見をまとめた後に順番にグループ内で発表していく流れが一般的かと思いますが、この時、自分より前に発表した人の意見に圧倒されて意見を言いづらくなってしまったり、最初の方のアイデアに多くのメンバーが賛同していると、違うアイデアを出しづらくなってしまったりすることがあるのではないでしょうか。
このような状況でより多様な考えを発散させるためには、付箋などに自分の考えを書いた上で、同時に見せ合うという工夫ができると思います。これはオンラインでも、同時にチャットに打ち込むなどのやり方で応用できそうです! ワークショップの狙いや参加者の状況に合わせて、ぜひ様々な工夫を試してみてください。
ワークショップにおけるカギは何か
ここまで全3回にわたり、ワークショップにおいて多様なメンバーが「共創」するために環境面でできる工夫について考えてきました。最後に、こういった工夫がなぜ効果的なのか、つまりワークショップにおけるカギは何なのかについて考えたいと思います。
人と人が集まってなにかしらの問いに向き合う時、そこで生まれるコミュニケーションにはいくつかの種類がありますが、参加者の相互理解が進んだり、新たなアイデアが生まれやすいのが「対話」だそうです。対話とは「あるテーマに対して、自由な雰囲気の中でそれぞれの『意味付け』を共有しながらお互いの理解を深めたり、新たな意味づけを作り出したりするためのコミュニケーション」のこと。(*5:「問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション」)
1つの問いに対して、◯か✕か、AかBか、白か黒かではなく、お互いの前提の違いを理解することで新しい意味やアイデアを見つけていける可能性があります。最終的には1つの結論を導くとしても、このように相互理解の上で発散させるプロセスが大切だと思うのです。
そんな「対話」をより効果的に促すため、多様な人々が自分を発揮できるための環境面の工夫が一役買ってくれることもあります。ワークショップの場はもちろん、会議など普段のビジネスコミュニケーションでも、いやビジネス外でも(筆者は普段の人間関係含めてヒントが沢山あるなと思いました!)、何かお役に立つことがありましたら幸いです。
お読みいただきありがとうございました!
[参考・出典]
- 「ワークショップ・デザイン: 知をつむぐ対話の場づくり[新版]」(堀 公俊、加藤 彰:日本経済新聞出版 2023年)
*1)「コーヒーショップでは集中できるのに、オフィスではなぜ気が散ってしまうのか」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2017年12月20日)
*2)「BGMが作業への印象に与える影響 ―ながら習慣に焦点を当てたオンライン実験による検討―」〔髙久 美月・池上 真平:昭和女子大学-生活心理研究所紀要 2022: 巻 24, p. 111-126〕
*3)「ハッピーな音楽は創造力を向上、研究結果が関連性を示唆」(Forbes JAPAN 2017年9月12日)
*4)「アイデアが生まれる環境はつくれる!「音」や「映像」を活用してワークプレイスを「知的生産所」へ」(2021年6月4日 パナソニックEWネットワークス株式会社 Sw!tch Times )
*5)「問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション」(安斎 勇樹、塩瀬 隆之:学芸出版社 2020年)