“変えていくもの”と“守るべきもの” ブランドリフレッシュプロジェクトに描くUPWARDの未来

“変えていくもの”と“守るべきもの” ブランドリフレッシュプロジェクトに描くUPWARDの未来

「どこでも快適に働ける世界をつくる」をミッションに掲げ、外回り・訪問営業に特化したモバイルCRMを提供するUPWARD。これまで順調に成長を続けてきた同社が、次に目指すフィールドに向け、全社一体となって歩みを進めるべく始動することとなったブランドリフレッシュプロジェクト。

今回は本プロジェクトを推進するUPWARD株式会社のマーケティング本部マーケティングコンテンツ部 部長の田中 智樹さん(以下、田中さん)、同社のクリエイティブを支えるワジンスカ テチャナ(以下、ターニャさん)さんと、FRACTAのプロジェクトメンバー 柳田(プランナー)・西澤(デザイナー)・鈴木(コピーライター)・左納(ディレクター)との対話を通じて、ブランドリフレッシュに描くUPWARDの未来と、その共創ストーリーをお届けします。

ーまずはお二人の自己紹介をお願いいたします。

田中さん:私はマーケティング本部 マーケティングコンテンツ部の部長を務めています。UPWARDのコーポレートからプロダクトまで、ブランド活動全般のクリエイティブディレクターとして、世界観の統一や各タッチポイントにおける表現などの戦略と戦術、そしてデザインコントロールの役割を担っています。

ターニャさん:同じくマーケティングコンテンツ部のターニャです。私はこれまでもグラフィックデザインを仕事にしており、UPWARD入社当時はブランドガーディアン、いわばブランドを守る存在として、グラフィックからWebまでデザインがブランドイメージとマッチしているか、また統一されているかなど、一貫したブランド表現を保つことを任されています。


次なる成長を見据えた旗印を立てる。

ーありがとうございます。では今回のプロジェクトについてお聞きしていきます。まずはプロジェクト実施にあたっての目的について教えてください。

田中さん:UPWARDは今後の成長戦略の一環として、APAC (アジア太平洋) エリアを中心とした海外展開や、IPOを目指すことを掲げています。そうした将来の成長を実現するために、旗印となるようなコンセプトを打ち立てよう、というのが今回のブランドリフレッシュプロジェクト立ち上げの背景です。

ーブランドリフレッシュという言葉は我々FRACTAもあまり聞かない表現なのですが、ここにもプロジェクトにかける想いが表れているのでしょうか?

田中さん:ブランドリフレッシュはUPWARD代表の金木の捉え方なんです。今回実現したいことは、リブランディングのように新しく生まれ変わるのではなく、これまで大事にしてきたブランドの核や原点を見つめ直し、それをアップデートして言語化や可視化のうえ、表現に落とし込んでいくことでした。それは過去に積み重ねてきたブランドの更新、つまりリフレッシュだという捉え方ですね。 あえてリブランディングと言わないようにという意識はあったと思います。

左納:僕も色々なプロジェクトに携わってきましたが、この表現はすごく印象的でした。既存ブランドをリニューアルするプロジェクトは、多くの場合リブランディングと呼びますが、リフレッシュをかける、更新するという考え方はとても新鮮で素敵だなと思ったのと同時に、プロジェクトの根底にある意識や想いを感じました。


既存のコミュニケーションを土台に、より開かれたブランドとなるために

ーそうしたブランドとして大きな分岐点となるプロジェクトをFRACTAへご依頼頂いた理由はどんなところにありましたか?

田中さん: 事例のクオリティはもちろんですが、アウトプットの手前のコンセプトメイクからしっかり並走してもらえる期待感を持ちました。それに加えてOne by Oneというパッケージング型のサービスだったことが、明朗会計的でよかった部分です。 スタートアップは投資に対するリターンをシビアにみます。見合った成果が生まれることへの期待感やアウトプットのクオリティ、コンセプトメイクの安心感が得られたことが理由になりました。

ターニャさん:私もパートナー会社のリサーチに協力しましたが、「FRACTAはコミュニケーション力があり、フローがクリア」という印象を持ちました。

ープロジェクト実施前に抱えていた課題はどんなことだったのでしょうか?

田中さん:これからのUPWARDの成長を見据えたときに、既存のブランドコミュニケーションは良くも悪くも「堅実すぎる」印象を与えているというのが課題でした。ビジネステック市場は大手企業も多く、我々のような小さなスタートアップがプレゼンスを示すためにはまず一番に信頼を得る必要があります。それゆえ、これまでのUPWARDのブランドカラーはネイビー基調のわりと硬い印象だったんです。

そうしたコミュニケーションで信頼の土台はできたものの、次なる成長に向けてより開かれたブランドでありたい、もっとカジュアルに利用されるSaaS企業になっていきたいというフェーズにおいては、ややかっちりしすぎている、スタートアップらしい軽やかさが演出できていないと感じ、世界観の更新を検討していました。

ターニャさん:ビジュアルの面でも、やはりネイビーは少し暗い印象があると感じていました。加えて、既存のブランドガイドラインで規定されていたカラーでは、コントラストが足りないなどデザインする際に課題もあったので、より明るくて、現代にマッチしたカラーでブランドリフレッシュできたら良いなと思っていました。



根底の想いを守り、時代に合わせて磨き上げるクリエイティブ

ー課題に挙げていたブランドカラーですが、プロジェクトを通して明度の高い青が採用されたかと思います。これについてはどのような議論がありましたか?

西澤:チームでのヒアリングやワークショップを通して、UPWARDさんのベースになっている「青」が大事な色で、この根底は変えたくないということは共通認識としてもっていました。ただそれをどのような表現にしようかと検討していて、そこで今回のプロジェクトで策定したパーパス「Inspiring Upward Creativity」からヒントを得ました。

これは、フィールドワーカー(=外回り・訪問営業の人々)の創造性を引き出し、企業と社会の成長を加速させたいという金木代表の想いが反映されたパーパスで、ここからフィールドセールスのクリエイティビティを刺激するような色にしたいと考えました。今回提案した青は、モニターなどで使われるRGBカラーでしか再現できない彩度なのですが、そうしたデジタル起点でのクリエイティブが時代性を捉えつつ、アプリケーションサービスを提供しているUPWARDさんにとてもマッチしていると思い、提案させていただきました。



青一色で表現しているのは、プロジェクトの中で「シンプルで簡潔であることがUPWARDの良さだよね」という言葉がよく出てきており、青に他の色を足すということではないのかもしれないと感じ、方向性を調整しました。

ターニャさん:西澤さんからは緑に近いもの、紫によせたものなど様々な青を提案してくださり、金木社長や他のデザイナーさんの意見を聞きながら、鮮やかで使いやすい現在の“UPWARD BLUE”を選びました。また、これまではアクセントカラーに緑や黄色を使っていたのですが、赤だけを使うというシンプルなガイドラインにしていただいたおかげで資料は作りやすくなったと感じています。

つくって終わりにしない、全社員が活用できるブランドガイドライン

西澤:資料における使いやすさも精査する中で、既存のアクセントカラーはなくても成立するし、カラーパレットは青をベースにしていくことで、UPWARDさんの青の印象を強められるような設計にしました。

田中さん:新しいアクセントカラーは当時プロジェクトでサイトのリニューアルも並行して動いており、クリエイティブをサイトへ落とし込んでいくときにコンバージョンを意識してつくっていただいた経緯があります。ブランドの顔つきを作る色はもちろん大事ですが、ユーザーを誘導したいページへの導線や、主張を強調するときなどに活用できるアクセントカラーを設計していただきました。

ターニャさん:今回はこれまでになかった資料作成時のルールや使用禁止例などをガイドラインに盛り込むこともオーダーしていたので、“これを見ればデザイナーではない社員もブランドとして世界観が統一された資料を作れる”というガイドラインを一緒に完成させることができたと感じています。

田中さん:社内的にはNotionでブランドアセットルームを作って、ロゴがほしいなどのやり取りや資料の簡単なスライドキットを作って置いておくなど、いつでもブランドクリエイティブに関する情報を取得できるようにしています。



既存のクリエイティブから“らしさ”を抽出してブラッシュアップ

ー生きたガイドラインが作られたところで、次は外側の表現について伺います。まずはロゴについて、今回はマップを象徴するようなピンマークロゴになりましたが、こちらはどのように生まれたのでしょうか?

ターニャさん:ピンマークのモチーフはもともと、UPWARDのプロダクトデザイナーが作っていて、これからのUPWARDを表現できそうな要素だということでFRACTAさんに共有していました。

西澤:データを拝見して、細かく見てもきれいに精緻化されたピンマークだったので、ぜひ有効活用したいなと感じました。ピンマーク自体は様々な企業が活用するありふれた形なので、そこにUPWARDらしさをどう盛り込んでいくかというところはすごくこだわりました。世の中にあるマップ系アプリケーションのアイコン調査など検証を重ねた結果、UPWARDの“U”が入ったものがわかりやすく、シンプルでブランドらしさを表現できるというところに着地しました。

田中さん:ピンマークはありふれたものですが、逆に言うと最もシンプルかつ普遍的なものですよね。そうしたある種インフラ的なモチーフをプロダクトであるアプリのアイコンに実装することで、ユーザーのエンゲージメントを高められると考えていました。ブランドとユーザーが常に接点をもつ場所というとやはりプロダクトですし、フィールドワーカーのスマホのなかで電話ボタンのように、いつも手元にあるわかりやすい存在としてあってほしいという想いもあります。



やっぱりこの佇まいが大事だなと思っていて。このすごく狭い四畳半のクリエイティブでブランドをどう表現するか、そこで“ピン+U”でUPWARDらしさを表現できたことがかなり良かったなと感じています。

“いつもユーザーのそばにありたい”というサービスの想いを表現

ーいただいた新しい名刺にもそのアイコンが印刷されていますよね。名刺の中でもシンボリックな存在感を示しています。

田中さん:先ほどお伝えしたフィールドワーカーの身近な存在でありたいという感覚を名刺の中でも表現した結果です。僕らが提供しているプロダクトはデジタルですが、その向こうで叶えたい価値はオフラインにあります。フィールドセールスの人々がお客さんと出会い、そこでエンゲージメントを高めるためのサービスなので、オフラインでブランドを表現するアウトプットは大事にしたいなと思っていました。そのため、名刺はコーポレートアイテムではありますが、プロダクトの象徴も要素に入れています。


田中さん:名刺以外にもTシャツの作成などで使っています。12月にようやくプロダクトのデザインリフレッシュができたので色々なものに順次モチーフを適用させていくところです。

イベントの装飾に用いられたサービスアイコンを模した風船。
『UPWARD100』:https://note.com/upward/n/n29e4abb0a084

田中さん:Tシャツは会社でのイベント時につくりました。UPWARD100』という名前の社内オフラインイベントを9月に実施したんです。UPWARDはビジョンに「どこでも快適に働ける世界をつくる」と掲げていることもあり、メンバーが全国各地にいるのですが、オフラインではなかなか集まる機会がなくて。社員がちょうど100人に達するタイミングで、それをフックにして一度集まろうと企画されました。

詳細はnoteをみていただけたらと思いますが、クリエイティブの活用に関してお伝えすると、ピンマークモチーフの“U”が入ったバージョンはプロダクト周辺でしか使わないようにしているので、こうした会社行事などの場合は基本的に“U”なしバージョンを使用しています。

価値構造を見直し、サービスを象徴する直感的なサイトへ

ーグッズにも反映されていてすてきですね。サイトへの実装という点ではいかがでしたか?課題なども含めて教えてください。

田中さん:リフレッシュするまでは、バリューストラクチャー=誰のためのどんなプロダクトで、どんな価値を提供して何を変えていくのか、というところがあまり整理されていませんでした。その混沌とした部分がサイトにもにじみ出ていて、色々な増築を繰り返した結果、どこが入り口なのか迷ってしまう構造だと正直感じていました。プロダクト自体は直感的な操作性が魅力だと伝えている一方で、それを表現するタッチポイントが直感的ではない。そこに矛盾が生じてプロダクトの魅力が正しく伝わらず、かなりコミュニケーションのロスを生んでいるなと捉えていました。

柳田:サイトの目的のすり合わせは、限られたスケジュールの中でも時間をかけて取り組みました。サイトに訪問するユーザーのバリエーションは多岐にわたり、それぞれ目的も異なります。そのため、ユーザーがいかに自分の得たい情報にすぐ辿り着けるかにフォーカスして、サイトマップやワイヤーフレームを設計していきました。

西澤:目的の優先順位づけはかなり議論していましたね。既存サイトではコーポレートもプロダクトも並列で語られており、それが田中さんのおっしゃっていたわかりづらさの一因にもなっていたと思います。チームでのディスカッションを経て、プロダクトを語ることが会社を語ることになる、ユーザーの興味の中心もそこにある、という結論に至りました。

柳田:課題にあった直感的な操作性という点では、プロジェクトで定めた言語的・視覚的なアイデンティティをサイトに落とし込むことで改善を図りました。トップページの見出しだけをざっと見てもある程度アプリの概要がわかる、アイコンを並べて見せることで文章を読み込まなくても機能の理解がしやすいなど、直感的にわかりやすくするための設計は田中さんと一緒に進めていきました。サイトでは最終的なコンバージョンを資料ダウンロードとお問い合わせに定めていたこともあり、まずは興味を持って問い合わせていただくために、いかに重要なポイントをミニマムに情報設計できるかを意識しました。

ー先ほど出ていた“プロダクトを語ることが会社を語ることになる”という発想はもともとUPWARDとしてお持ちだったのでしょうか?

田中さん:会社全体でみんなが何となく思っていることを吸い上げて生かしている、という感じかもしれません。新しく入社したメンバーに「何で入社したんですか?」と聞くと、プロダクトに共感したという意見が多いんです。プロダクトのファンというよりは、その必要性が実感値として理解できる、共感できる人。そういうメンバーをみていて、採用においても心を掴むインターフェースはプロダクトなんだなと感じていました。



パーパスの策定から浸透までともに取り組む

ープロジェクトの前半ではパーパスの策定を行っていましたが、このイベントでも共有されていましたか?

田中さん:イベントでも共有しましたが、全社員向けに初めて共有したのは6月でした。変わること自体はあらかじめ年始ぐらいから少しずつ伝えて理解の土壌を耕しておき、正式にサイトがオープンした6月に、パーパスやロゴなどリフレッシュするものをすべて共有しました。

鈴木:完成したものの社内共有はUPWARDさんにて実施されましたが、プロジェクト進行中には、私と左納が全社の共有会に出席させていただき、いまこんなことに取り組んでいるということを背景も含めてお伝えしました。パーパスを策定していくなかで、つくったものを浸透させる動きも必要だということで、企業としてさらなる成長のためにどんなことがいま動いているのか、何のためにやっているのかをFRACTAから共有しつつ、アンケートなどの協力をお願いしたり、社員のみなさんを巻き込むようなアクションを実行していきました。



リフレッシュを経てみえてきたUPWARDのあるべき姿

ーリフレッシュを実施して、実際にどう感じられましたか?社内の反響なども含めてお聞かせください。

田中さん:ブランディングのビジネス的なインパクトはなかなか中長期的にしかみえてこないところですが、社内的にはリフレッシュを経て「これが自分たちのカラーだよね」「これが僕らの今の顔だよね」という感じで、鮮度を取り戻したようにいきいきとしていったように思います。社内メンバーから「これも新しいデザインにしたいんですけど」という報告をもらうこともありました。前述したイベントでも、新しいロゴで新しいグッズを作りたいと相談を受けるなど、ポジティブな変化だったなと思いました。

ー改めて、今回のプロジェクトを通して得られたこと、変化したことはありましたか?

田中さん:先ほどはポジティブな変化があると言いましたが、一方で難しいなと思うのがパーパスへの理解ですね。その必要性のインストールはまだまだ途中段階です。また、プロジェクトを終えてこの半年で分かってきたことは、言葉のあり方です。FRACTAさんとずっと議論してきたことの一つに「フィールドワーカー」というキーワードがあります。

コンセプチュアルな言葉ですが、現場に落としづらい言葉だったり、それって結局誰なんだっけ?という疑問もあったりして、そこのブレイクダウンをこの半年で進めていました。その結果、それって外回り・訪問営業の人々だよね、というところに行き着いて「外回り・訪問営業のDX」で第一想起を取ることに再びシフトしました。

コンセプチュアルなレイヤーではフィールドワーカーと伝えていますが、マーケティングやセールス領域に落とし込むときは、外回り・訪問営業の人々としています。それによって、何をやるべきかが色々とはっきりしてきたというのが、遠回りしましたがブランドリフレッシュの成果かなと感じています。


ターニャさん:Webサイトがビジュアル的にリフレッシュし、ブランドカラーも更新したので、ユーザーにとってわかりやすくなったと感じています。グラフィックやイラストも使えるようになり、これまで以上にUPWARDらしさを表現できると感じています。

私は前提として、Webサイトは生き物のように変化し続けるものだと考えています。なので、ブランドリフレッシュ直後のサイトとして素晴らしいベースを制作いただいたと感じています。これからもユーザーファーストなサイトであり続けるために、ユーザーのニーズを考慮し、行動を分析しながら随時アップデートしていきたいと思います。


ー今回のプロジェクトを通じて得られたのは、今後の判断の基準や継続的な改善の土台になるものだったのですね。最後に、UPWARDが今後目指すことや実現したいことについて教えていただけますか?

田中さん:まずは自分たちが何者であるかの存在意義をより明確にし、UPWARDならではの魅力や価値を発信していきたいです。この土台を作らないとその先がないと思うので。その先に海外のー今度は本当にフィールドワーカーという言葉がふさわしいかもしれませんが、そういう人々の働き方や生き方を変えるようなプロダクトを発信するSaaSになっていきたいなと考えています。FRACTAさんと共に作り上げたものは、グローバルで通用するものになったと感じており、これからは世界でもチャレンジしていきたいなと思っています。


ー田中さん、ターニャさん、ありがとうございました!

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今回のインタビューを通じて、UPWARDの企業としての方向性やアップデートの基盤を築く重要な要素を得ることができたのだと実感しました。

UPWARDらしさを言語化し、プロジェクトで目指す先をチームで共有する時間をしっかりと取ったことが、クリエイティブやサイト設計の最適なリフレッシュにつながったプロジェクトでした。

FRACTAでは今後もブランドのネクストステージを見据えたブランディングをサポートを実施していきたいと思います。

UPWARDプロジェクトの詳細は以下のページよりご覧ください!

▶︎UPWARDプロジェクト事例:https://fracta.co.jp/blogs/projects/upward
 

(撮影/ナルトン 由璃子 取材・文/花沢 菜摘 編集/CSV局)