ルミネのOMO時代におけるコミュニケーション戦略

ルミネのOMO時代におけるコミュニケーション戦略

写真左から)株式会社ルミネ 営業本部 OMO推進部 マーケティングコミュニケーショングループ 渡名喜 暁子氏、梯 理子氏、FRACTA ディレクター 内田ほのか、プランナー 土田和秀

 

 「わたしらしくをあたらしく」をコーポレートメッセージに掲げ、ショッピングセンター(SC)事業を展開するルミネ。コロナ禍により同社の強みであるリアルの接点が一時的に失われ、顧客との関係性の変化を余儀なくされました。そうした中でリアルの価値を見つめ直し、オンライン施策を融合させるOMO戦略への取り組みをはじめています。

今回は株式会社ルミネ 営業本部 OMO推進部 マーケティングコミュニケーショングループの渡名喜 暁子さん・梯 理子さんと、戦略策定からルミネチームメンバーの一員としてプロジェクトに携わっているFRACTAの土田・内田との対話を通じて、OMOに取り組む際のポイントに触れながらルミネが目指す顧客体験についてお届けします。

 

ールミネさんがOMOの体験設計へ取り組むきっかけについて教えてください。

渡名喜さん:大きなきっかけはやはりコロナでした。ルミネはこれまでリアルの体験が強みで、本当にたくさんの方に足を運んでいただき、そこでの体験に特化してきました。けれども、コロナをきっかけに来店頻度が減ってしまったりECでお買い物をされるようになったりと、リアルでの接点は減少しましたし、さらにはお客様の情報発信や受け取り方も変化していると感じていました。ルミネとしても危機感を持ち、来店のないときにもお客様とコミュニケーションをとれるオンラインの接点づくりに取り組んでいく動きが出てきたところでした。

土田:まさに非来店時ですよね。2021年からご一緒していて、構想から具体的な施策への落とし込みまで向き合っている最中ですが、ルミネさんの課題としては来店がないときでもお客様との関係値を深めていける施策の実施が挙げられていたかと思います。

渡名喜さん:ルミネの店舗はJRの駅を中心に展開しており、仕事や通勤のついでにふらっと立ち寄れる場所としてご利用いただいています。けれど「ステイホーム」の徹底が呼びかけられる中で、その「ふらっと」がなくなってしまった。目的がないと行かない場所になったとき、目的になりえる情報発信がしっかりできているかと言われると、足りていない部分もあると感じていました。ちょうどその頃社内に「DX推進部」が立ち上がり、ルミネのデジタル体験について考えはじめていて、デジタルはリアルを補完する役割であるべきという話もしていました。


ルミネの強みであるリアルを補完するデジタル活用

土田:DXといっても、ルミネさんの場合はいわゆるデジタルトランスフォーメーション、いまあるもののデジタル化ではなくて、リアルの価値の最大化やリアルにきてもらうためにオンラインのあり方を定義する意味合いのほうが強かったように思います。ですので、オンラインとオフラインを融合させるOMOという言葉の使用をこちらから推奨することもありましたが、ルミネさんは現場スタッフへのOMO理解についての落とし込みをとても丁寧にされていましたよね。

渡名喜さん:OMOの取り組みに限らず、SC事業においては本社と館(店舗)の間である程度の距離感が生まれてしまうことが往々にしてあります。そうした状況でも、館の皆さんと共に推進していけるように、それぞれのフィールドまで落とし込んで伝えるようにはしています。

ー本部と館との間に生まれてしまう距離感も、OMOに取り組む上での課題でしたか?

渡名喜さん:そうですね。私も梯も元々館出身でして、本部にはそうした現場経験者が在籍していることもあり、館側の気持ちを理解できることも多いです。一方で、本部業務を経験した現場メンバーは少数派のため、本部がどういう動きをしているかは見えづらかったり理解しづらい部分もあります。また、現場は常に目の前のお客様への対応が必要ですし、計画も「来月の売上を取るためにどうすべきか」といった比較的短期間に集中することも少なくありません。ですので、本部から中長期計画などの話をする場合やOMOのような広義の話になると温度差が生じるケースは多いですね。

土田:現場の方々もデジタルの活用やOMO体験設計が必要だとは理解していても既存業務との兼ね合いで手が回らない部分があると、現場の方々へのヒアリングを通じて感じました。OMO体験設計は、既存の業務や体験と切り離して考えるのではなく、適切なデジタル化や体験の融合の推進が必要というお話もさせてもらいました。これはルミネさんに限らず、SC事業における課題感でもありそうですね。


ーFRACTAに期待する役割としては、OMOの社内浸透サポート的側面が大きかったのでしょうか?

渡名喜さん:FRACTAに支援をお願いしたときは、デジタル領域においてフラットにリーダーシップをとり、プロジェクトを牽引してもらうことを期待していました。でもここまでプロジェクトを共にして結果的に良かったと感じているのは、ルミネの考え方を理解・考慮しながら成功をサポートしてくれるところです。特にデジタル活用のあり方ーリアルを最大化するためのデジタルーという位置付けをしっかり理解いただいている。社内でデジタルに関わる部署の連携は今後も強化する必要があるのですが、そこにルミネの考え方も理解しつつ専門的見解をもって支援してくれるメンバーがいることは本当にありがたいなと感じています。

マイナスをゼロに。顧客コミュニケーションの深度を高めるデジタル

ーリアルに強みをもつルミネさんがデジタルの価値を定義する際に難しいと感じたポイントはどんなところでしたか?

渡名喜さん:デジタルでの提供価値には段階がありそのステップを理解する必要がある、ということですね。新しい取り組みに際してはどうしても「ルミネらしさ」が議論の中心にあがります。「ルミネでやる意義はなにか」「ルミネらしくやるにはどうすべきか」は常に検討される要素です。けれど、まずはマイナスをゼロにする、現状できていなくてご不便をおかけしていることがあればそこをクリアする。その先にルミネらしさしかり、お客様の満足度や感動していただくための設計フェーズがあるイメージです。まずは足りてないところを補う・整える、というところに行きつくまでの議論は幾度も重ね、苦労したところでした。

ーFRACTAがいて良かったと感じることはありましたか?

梯さん:全体最適の考え方を教えていただいたことです。何かに取り組むとき、全体像からどう進めていけばいいか、まず何をすべきでどう検証するのかという考え方ですね。現場目線、お客様目線で考えているとどうしても後から足りない部分が出てきたりするのですが、全体を俯瞰して考えられるようになると、最後の着地まで見えるので施策なども設計しやすいなと感じています。



渡名喜さん:FRACTAには全社的に勉強会やワークショップを開催してもらったり、プロジェクトの定例会議で館のメンバーの意見も聞いていただいたりと、プロジェクト全体を進めながら細かい部分も支援してもらいました。それによりプロジェクトに関わる私たちの解像度もあがりましたし、社内浸透も進められているところだと感じています。

内田:逆も然りですよね。私たちも勉強会やワークショップに参加された現場の方々から話を聞くことで気づくこともあり、すごく意味のある時間になった実感があります。

渡名喜さん:あとここまでご一緒してきてすごく整備が進んだなと思うのが、カスタマージャーニーで繋がるツールのあり方です。ルミネはすでに様々なデジタルツールを活用しているのですが、これまではそれぞれが別々に機能している状態でした。でもそれがお客様を起点にし、一つのカスタマージャーニー上でお客様にとって最適な役割や機能を整理整頓できたのは嬉しいポイントです。

ー今後もプロジェクトは続いていきますが、これから取り組みたいことを教えてください。

渡名喜さん:動き出すベースは整ったかなと感じているので、ツールの整備をより具体的に進めていくところです。

土田:次は実装フェーズですよね。ここからはアプリなどのデジタルツールを中心とした施策を進めていきたいですね。

渡名喜さん:現在はリアル回帰の流れもあり、来店いただけるのは嬉しいことですが「来店があるならこれまで通りでもいいのでは」となりかねない。でもルミネがさらにスケールアップしていくためにOMOへの取り組みは絶対に必要なこと。それをいつやるのか、根拠立てて推進していくことが重要だと感じています。

土田:今後1〜2年で、OMOへの取り組み次第で選ばれるブランドとそうでないブランドの差が出てくると思います。リアル回帰を頼りにすることなくOMOでの成功体験が小さくてもひとつ作れていると、現場のスタッフもポジティブに捉えてくれると思うので実現したいところですよね。

渡名喜さん:弊社の施策はこれまで、100点の仕組みが整ったら全館で一斉に始めるというやり方が中心でした。けれどそれだと戻すのも大変だしコストもかかる。だから一店舗もしくは数店舗でスモールスタートしてちょっとずつ蓄積するような方法に慣れていく必要があると思っています。館のスタッフは自分たちのお客様のことをよくみて理解しているので「こういうニーズがあるからこれをやりたい」といった発信の切り口は豊富にあります。ですので、館が主体となるようにヒアリングしたりきっかけを与えたりできるといいなと。本部からある種のトップダウンで行うと受動的になりうまくいかないことも多いので、館が企画して本社がサポートする関係値を一緒につくっていきたいと思っています。



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インタビューの終わりには、雑談ベースでそれぞれが思うルミネらしさについて伝えあっていただきました。そこから「ルミネは自然とお客様視点で考えることができる」文化があることを改めて認識されていました。お客様に寄り添い伴走する姿勢はFRACTAとも通ずる部分であり、本プロジェクトのご縁をいただいた理由の一つなのだなと感じました。



渡名喜さんは最後に「ずっと変わらないルミネらしさがあって、これまではそれを武器に成長してきた、そこに甘んじていた部分は少なからずある。今後さらなるステップアップをしなければならないというマインドへの転換も必要かなと思っています。これまでの強みが強すぎるからこそ抜け出せないジレンマもあると思うので、引き続き意識改革には取り組みたい。」と話されていました。

FRACTAとは今後もプロジェクトが続いていきます。実装フェーズではプロジェクトページにて詳細をお伝えしていく予定です。



ここまでお読みいただきありがとうございました◎

 

(撮影・取材・文/花沢 菜摘 編集/CSV局)