ブランディングにAIは活用できるのか

ブランディングにAIは活用できるのか

現在、ChatGPTをはじめとする生成AIはさまざまなシーンで活用され、注目されています。教育やマーケティングの分野をはじめ、数多くの領域でAIは変革を引き起こしていますが、ブランディングにおけるAIとの関わりも、今後ますます大きくなっていくと予想されます。

AI技術の進歩は、消費者行動の理解と予測を強化するだけでなく、企業がブランドを構築、管理、拡大する方法を変革する可能性を持っています。新たなビジネスを始める際に市場への参入を促進したり、カスタマイズされたブランド体験を提供する力も向上するでしょう。しかし、ブランド体験とは非常に複雑かつ、エモーショナルなものです。人間でも設計に苦労するブランド体験を、果たしてAIはどこまで担えるのでしょうか? 今回はその展望について、まとめていきたいと思います。

顧客理解のためのAI

まず、AIの活用により、データ分析による消費者行動の把握が容易になります。膨大な量の消費者行動情報を不眠不休で分析することはAIが最も得意とするところだからです。これにより、企業は顧客の傾向、活動、必要性をより速く正確に把握できるようになります。ブランドはここで集約された情報を元に、カスタマイズされた製品やサービスを提供し、マーケティングコミュニケーションを最大化する戦略を構築、実行できる可能性も高まります。

例えば、Netflixは、視聴者の行動データを活用して、映画やドラマシリーズの制作を行ってきました。Netflixオリジナルのコンテンツが多くの人々を魅了し、人気を得たのは、決して当てずっぽうではないのです。大量のデータを定量的に分析し、それらを元に戦略と創造に活用することで、ビジネスを構築してきたと言えます。また、視聴履歴に基づいて次に観る動画を薦めるAIレコメンド機能など、AIや機械学習によるデータ分析を使ったことで飛躍的な成長を遂げました。

今後はこの様なカスタマイズ機能が他のサービスでも一般的になっていくと考えられます。逆にこれらのデータを活用できないと、常に「感覚」のみで次の打ち手を考えるか、時間をかけて集めたデータを使ったとしても、後手に回った打ち手しか取れない可能性も出てきます。

ブランドが顧客にとってより適切なコンテンツやサービス・製品を把握し提供することで、顧客ロイヤルティや満足度の向上に繋がることはもちろん、これらを活用できないと、他社と比べてサービスレベルが劣る可能性も出てきます。

AIの活用によるブランドマネジメント

ビジネスの根本部分でAIを活用できる機会ももちろんあります。ブランドの開発と管理のための新たなツールとして、AIを活用することです。企業やブランドの評判をコントロールし、顧客との対話を強化するための支援などが挙げられます。

例えば、ソーシャルメディアの投稿やオンラインのフィードバックなど、膨大な量のデータをAIを使って分析することで、ブランドが現在どの状況にあるかを把握することができます。これにより、ブランドや企業は自社の製品やサービスが顧客にどのように受け止められているかを理解し、強化の必要な領域を迅速に特定することができます。

そもそもブランドマネジメントは、非常に重要と言われつつも担当者にとっては重荷となります。ブランドとしてのレギュレーションをどこまで守るべきか、また成果とレギュレーションのどちらを優先させるべきか…。SNSの発信一つとっても大きなブランドであればあるほど、その一挙一動に多大な重責が発生し、運用負荷も飛躍的に高まっていきます。この部分の判定にAIは非常に有効ですが、ガイドラインをどこまで引くかや、全体のトーン、世界観を決めるといった意思決定には人間の判断が必要不可欠です。SNSの運用やブランドの運用を丸投げできるようなものでは決してありません。

Microsoft 365に搭載されているAIシステムの名称「Copilot(コパイロット)」は、日本語で「副操縦士」という意味ですが、AIはコパイロットとして、確認する、壁打ちする相手としては非常に有効です。この場合は、最初のレギュレーションや方針をしっかりとAIに学習、設定させることが肝要になります。

また、AIによってブランドと顧客とのコミュニケーションを自動化することもできます。チャットボットや音声アシスタントは、ブランドの顧客エンゲージメントのためのサポート業務を24時間365日対応に拡張することもできます。顧客体験の向上とロイヤルティの醸成は、これによって大幅に加速できます。

オンラインにおける顧客体験において、CS(カスタマーサクセス)についてはWebサイトやメールと違い、基本は営業時間が存在しています。また、顧客が色々質問したとしても、CSは多くのお客様と1対n でコミュニケーションしており、受け答え自体が全てリアルタイムというわけにはいきません。しかし、AIの力でこれらが事実上「無制限」となります。

リソースの限界を超えて、顧客とコミュニケーションを取り続けられるCSは、強力な顧客体験になり得ます。ここでも最初のレギュレーションや方針をしっかりとAIに学習、設定させることが肝要になります。

▶AIを活用した顧客理解と顧客対応については、こちらの記事も参考にしてください。
全業務への実装は急務 ChatGPTなどテクノロジーの進化が後押しする現代リテールのブランディング

AIがもたらす新たなブランディングは今までの延長か?別物か?

マーケティング、セールス、コミュニケーションなどの各分野でのAIの活用は、GPT-4のような技術が既に浸透しています。現時点でのAI活用は既存のビジネスをより加速する、便利にする、生産性をあげるなどが主目的になっています。ブランディングでも同じことが言えるでしょうか?

ここでは、いくつかの視点から、AIをマーケティングやブランディングにどのように取り入れられるか、そこで生まれる新しい体験は、既存の延長か、それとも別物かについてお話ししていきます。

データに基づく意思決定と効率化

まず、AI技術の登場以前から、テクノロジーの発展によりマーケティングやセールスチームは手続きの簡略化、業務の機械化、データに基づく意思決定を行うことができるようになっていることはみなさんご存知の通りです。

そしてAIは、リードの生成から顧客とのエンゲージメントに至るまで、ブランドがマーケティングやセールスに用いる手法を革新する能力を備えていると言っても過言ではないでしょう。AIは一方通行ではなく、一通りのタスクをこなしながら、次に必要なプロセスを「コミュニケーション」していくことができます。

コミュニケーションによって、分断されたプロセスを接続できるAIツールは、コンテンツやタスクの作成と実行を、従来の方法を凌駕するスピードで行う能力を備えています。リードの評価、製品の展示、顧客とのエンゲージメントなど、セールスに関わるさまざまな業務をサポートする可能性を秘めています。

しかし、一方で、それらを効率的、高速に実行し続けられると、そのアクション一つ一つは当たり前の存在になり、コモディティ化していきます。実際にはデータに出てこない「感性的」な打ち手や、過去のデータにはない新しいチャレンジなどが必要なシーンも出てきます。

また、人間とのコミュニケーションを重視する顧客もいます。そしてそれに高い価値を見出すことももちろんあります。そのため、AIを活用することと、実際に人と関わることを棲み分けることが重要です。効率化によって生まれた時間を、社内外の人間との有意義な対話に充てるという選択も必要でしょう。

人間が1点から1万点まで取れる存在と仮定すると、AIは常に100点が取れる存在と言えます。1万点を取りに行くべき時は「人」の感性や審美眼を最大限引き出す必要があり、それはブランドビジネスに必要不可欠です。そのためにAIで効率的に満遍なく100点をとっておくという工夫も必要になってくるでしょう。

それらが上手く機能した時に生まれる「象徴的な体験」は今までのブランド体験とは一線を画すものとなっていると想定されます。AIを活用したブランディングによって目指す体験創出のゴールの一つとも言えるでしょう。

社内でのトレーニングと倫理観の認識合わせ

AIを活用することで、新しいブランド体験が生み出せる可能性は前述した通りです。しかし、実際にAIを活用するには様々なハードルがあります。企業側は、AIツールやテクノロジーを効果的にブランディングに活用できるよう、スタッフに十分な訓練と知識を提供する必要があります。AIを「何かよくわからないもの」としてではなく、とても強力な装備として認識してもらう必要があります。そしてその装備を活かすことはスタッフ一人一人にかかっていることも伝える必要があります。

AIが最も恩恵をもたらす分野を特定し、市場で入手可能なAIオプションを評価し、自社の要件に合致するものを認識することが重要ですし、その上で「人間が何をすべきか。人にしかできないことは何か」といった「人間側の再認識」も重要になります。AIの導入はAIだけを学べば良いのではなく、同時に「人」についての理解を深めることがとても大切になります。

AIツールの導入後は、長期的にAIモデルの効率を維持するために、継続的なトレーニングや改良の手順を作成することも必要です。さらに、AIの導入に伴う倫理やプライバシーの問題を理解し、すべてのAIプロジェクトが企業やブランドの価値観や業界標準に合致しているかを確認することが重要です。

AIは人に変わるものではなく、人が「装備」して初めて価値を発揮するものです。どんなに素晴らしい料理包丁でも、使い方によっては善にも悪にもなる危険性をはらんでいるように、AIも使う側の倫理観や管理がとても重要になります。

ブランディングへのAI活用はまだまだこれから

AIの活用はコスト削減、生産性向上の側面で語られることが多いですが、真の恩恵は、コンセプト作りから計画実行までのサイクル=回転数を上げることによる質的な変化であり、これが重要だと言えます。AIの活用による効率化はそれだけでも高い生産性付加価値を生み出しますが、そこで生まれた時間を活用し、「アナログコミュニケーション」の生成を同時に行うところまでをセットとすることで、より高い情緒的価値の創造が可能と言えます。

ブランディングにおいては、特にその点は重要視されてくると言えます。そういった観点からも、AIを活用した結果、どのような未来を目指すのか、そしてAIをどのように活用していくのかのビジョンの策定はとても大切です。

AIを副操縦士として活用するか、アシスタントとして活用するか、あるいはAIがブランドを象徴するような存在、例えばキャラクターに扮してあらゆる受け答えを人間に代わって行い、その回答自体がブランドを象徴するものになるなど…。ブランディングにおけるAIの活用は、これからさまざまな可能性を探っていくことができるのではないでしょうか。