【三浦さん、黒瀬さんと考える】こんな時代だからこそ考えたい「ECの倫理」〜後編〜

【三浦さん、黒瀬さんと考える】こんな時代だからこそ考えたい「ECの倫理」〜後編〜

前回に続き、ミウラタクヤ商店を運営する三浦卓也氏とStoreHero CEOの黒瀬淳一氏、FRACTA代表・河野が、改めて今考えたいEC事業者の倫理観についてお話しします。

前編はこちら

 

ブランディングは両刃の剣?

三浦:私はブランディングについては専門家ではありませんが、ブランディングには世界観を作り、その中に人を引き込む力があると思います。その力を良い方向に使えば人々を楽しませ、勇気を与えることができますが、逆に悪用すれば人々を洗脳し、逃れられなくすることも可能です。使い方次第で、どちらにもなり得るということです。

 

河野:確かに、それらは全て刃物のようなもので、両刃の剣でもあります。古代ローマのユリウス・シーザー(カエサル)も「刃物は生活を便利にすると同時に、破壊の道具にもなり得る」と語ったと言います。これらは我々の生活を豊かにする一方で、取り扱いを誤れば人々を深く傷つける可能性も秘めています。

それはビジネスにも通じることですよね。事業と顧客との信頼関係は長い年月を経て鍛えられ、それがブランディングの一部を形成していると言えます。こうした信頼関係が築ければ、顧客との関係性が深まり、商売とサービスの提供は格段にスムーズになります。それは、顧客とのコミュニケーションに対する恐怖がなくなるからで、間違いなくプラスの効果を生み出します。

しかしながら、ブランディングを用いて人々を嘘の世界観に引き込み、何でも言うことを聞かせるような関係性を構築することも可能です。このような関係が続けば、人々から自由な意志を奪い、自立した決断を下す力を失わせてしまうことになります。それは、いわば人々を鎖に繋ぐようなもので、結果的には双方にとってなんらプラスにはならないでしょう。

ブランディングは、人々からエネルギーや資源を搾取するための手段として使うのか、あるいは人々を勇気づけ、喜ばせ、共に成長させていくための手段として使うのか、その使い方が非常に重要です。黒瀬さんが仰るように、顧客との関係性は友人関係のように、共に成長していくものだという考え方がこれから先の世界では重要になっていくと感じています。相互理解に基づいた関係性が築ければ、それは非常に価値あるものとなります。逆に、単なる搾取の関係に堕した場合、その未来はどんなに経済的な成功を収めても悲惨なものになるでしょう。

今日のビジネス界では、数字の増加がカッコよさとされる風潮も確かに存在しますし、何においても数字が重要視されていることもわかります。しかし、私たちに今求められているのはサステナビリティ、つまり持続可能性です。現代の資本主義社会の基盤は確かに経済成長にありますが、真の資本主義とは短期的な利益追求だけでなく、長期的な視点からの成長と発展を目指すものです。これこそが、私たちが常に心に留めておくべき真実なのです。

 

三浦:私は最近、長期的な視点での評価の方法に問題があると感じています。以前、短期的な売り上げを重視する企業にいた経験がありますが、その企業は13年以上変わらず存在していて、活動も一貫しています。そう言った意味ではビジネスは成功していますが、活動の場は大きく変わっているようです。以前は大手ECモールで展開していたのですが、その後は自社サイトのメールマガジンへと移り、現在は過激なダイエット商品を積極的に売るようになりました。つまり、場所は変われど、ずっと同じようなことを続けてきたわけです。

そうした状況は逆に怖いとも思います。短期的な成果を出すことに特化し、ある1つの手法で結果が出ると、普通の仕事のマーケティングがあまりに非効率的に感じてしまう…時間や手間がかかりすぎると感じてしまうんです。そういった感覚が染み付いていると、信頼を前提とした結果を出すことは難しいと感じています。それは大手の人たちでも同じです。もちろん例外もありますが、私の経験から言うと95%ぐらいの人はその成功体験から離れづらいのではないかと思っています。

これは業界としても懸念すべき傾向で、長期的な視点で見た時に、業界全体がネガティブな方向に行ってしまう可能性があるのではと感じています。社会人になってから、倫理や道徳の重要性を学ぶ機会が少ないことも問題の1つかもしれません。

もちろん、消費者庁も規制の対応をしてくださっているのですが、追いついていないように思います。しかし、官公庁の動きが遅いことには避けられない事情もありますよね。それでも、啓蒙活動を含め長期的に見たらしっかりと規制を設ける方が良いと思います。そうしないと人材の輩出という側面でも難しい業界になってしまう…それはとても悲しいです。

商売は一生続くもので、そのつながりはお金だけではありません。信頼関係も重要な要素です。例えば、なにか特定の方法を使って10億円を1年間で稼ぐことができたとしても、その収益は翌年にはなくなる可能性が高いです。それに対して、毎年1億円ずつ10年かけて10億円を稼ぐ方が、事業という意味での再現性が高いと感じています。緩やかに増減はあれど、ビジネスを持続できる可能性がある方が結果的に大きな利益を生み出すこともでき、リスクも少ないはずです。少なくとも私はそう信じています。

 

長期的な信頼関係を築くために

河野:最後に、これから商売を始める人たちに、倫理の大切さを伝えるメッセージをお願いします。

 

黒瀬:私の見解は、必ずしも万人向けの言葉ではない可能性がありますが…人は基本的には誤りのない行動を選択するものだと思っています。そのため、「人と信頼関係を築きたい」ということを大前提として考えられているならば、特別何か気をつけるという必要はないと思います。

しかし一方で、ECで数字を上げることは容易ではありません。その難しさから短絡的な行動をとりそうになる可能性もあると思います。例えば、ネット上で「こうすれば稼げる」といった情報を見つけたら、それに手を出したくなるかもしれませんが、それは本来の自分の考えではないはずです。一度落ち着いて考えてみて、本当に長期的に事業を続けたいのであれば、そのような短絡的な行動はマイナスであると気づくべきだと思います。倫理的なアドバイスよりも、自分自身のポリシーに戻ることが重要です。だから、自然体に戻ることができれば大丈夫だと思います。

倫理は起業家にとって最も重要な要素の1つです。なぜなら、信頼を築くための基盤となるのが倫理だからです。信頼を得ることができれば、顧客や従業員、投資家からの支持を得ることができ、ビジネスを成功に導くことができます。

倫理的な起業家になるのは簡単ではありません。しかし、困難に直面しても倫理を守り続けることが重要です。倫理的なビジネスは、社会に良い影響を与えます。家族や仲間に自信を持って自分の仕事を説明できるか?それを常に心に留め置いてください。

 

三浦:私が皆さんに心から伝えたいこと、それは「事業とは、地道に、しかし確実に、長期間に渡り続けるものである」という信念です。皮肉なことに、この方法は一見、非効率に映るかもしれません。しかし、効率ばかりを追求するあまり、真っ赤な警告信号を無視して突き進むと、結果的に自己のキャリアを破壊することになりかねません。

マーケティングスキルを持つことは成功への近道と言われますが、それは全てを理解し、賢く行動できるごく少数の人にのみに当てはまる話です。実際のところ、マーケティングスキルと呼ばれるものの中には、必要不可欠なものもある一方で、残念ながら疑似的なコピーライティングや、霧に包まれたような嘘も存在します。

このような状況では、キャリアも窮地に陥るリスクが高まるばかりです。だからこそ、飛び込む前に、私たちは一旦立ち止まり、深く考えるべきなのです。一時的な成功やお金を手に入れるために何も考えずに、楽だけを求めて未来に渡ると回復不可能な状況に陥る可能性も否応なく存在します。

私のアドバイスはこのようなリスクを理解し、それに対峙する覚悟を持つこと。そして、業界の煌びやかな虚飾に惑わされず、自身のスキルと事業を育て上げるために必要な時間と労力を惜しまないことです。

 

河野:お2人のお話を聞いていて、倫理というのは個人の考えとして実装することも重要ですが、そもそもの「組織の文化」としての実装もまた重要と感じました。改めて、商売における「倫理」の重要性を学ばせていただきました。ありがとうございました。