デザイナー、アートディレクターになる。 〜デザイナーがADになる上で必要な心得〜

デザイナー、アートディレクターになる。 〜デザイナーがADになる上で必要な心得〜

FRACTAのアートディレクター/デザイナーの西澤です。
30歳も目前、FRACTA入社と共にアートディレクター(以下AD)としてのキャリアがスタートしました。
ご覧になる皆様の中には、デザイナーからのキャリアアップでADを視野に入れる同年代の方も多いのではないでしょうか?
デザイナーがADになる上で、求められる素養とは何か
FRACTAでの経験をもとに得た実感と気づきを、本記事でシェアできればと思います。

「デザイナーってディレクションできるわけじゃないの?」
「ADにデザインを頼むべきか、デザイナーにデザインを頼むべきかわからない!」
そんなみなさんもこの記事をきっかけに、この職種への理解を深めてもらえればと思います。

 

アートディレクター(AD)とは

ご覧になっている皆様にとっては、今更…とお思いになるかもしれませんね。
ここでは弊社と同様、ブランドデザインにおけるADについて一旦定義します。
ADは文字通り、アート(外見、デザイン)をディレクションする人です。
会社や業態により程度は様々かと思いますが、実際にデザインが出来上がる工程において、デザイナーは実際に手を動かす比重が重く、ADはその作業の監修を行い、ゴールへ導く比重が重いと言えるでしょう。

近年は特にその分業は緩やかに曖昧になり、ADがデザインを、デザイナーがアートディレクションをすることも増えてきました。
デザイナーを経てADになるというステップに起因している部分がありつつ、クリエイティブに割く費用の減少傾向にも由来しているように思います。

 

デザイナーがADになる上で

ここからが本記事の主題になります。
私は広告制作会社で5年デザイナーとして働いた後、FRACTAでADをしております。
前職では多様で優秀なADの方々と共に、企業の広告制作にあたっていました。ADという職業を身近で拝見し、職種に対する理解をなんとなくできていたつもりです。
しかしいざ自らがADになってみると、ADに求められる素養がデザイナーとはっきり異なることが、実感を持って明らかになります。
デザイナーがADになる上で、求められる素養とは何か
デザイナーだった私が感じたギャップを元に、数ある中から4点に絞ってお伝えします。

1.経営とデザインをつなぐ

デザイナー時代、かっこいいデザイン、美しいデザイン、目新しいデザインを追い求めていました。
しかしADとしてクライアントにデザインを提案するのであれば、同時にそれはビジネスとして成立するクリエイティブでなければなりません。
クライアントのビジネスを理解し、そのデザインがいかに経営に作用するのか?ADは考慮する責任があります。
もちろん、ビジネスとしての成立を第一義とし、デザインとしての美しさを蔑ろにするわけではありません。
直感的な感覚を大切にしながら、それらを論理的に捉え直す能力…ひいてはデザインを経営視点で説明できる共通言語を手に入れることが、ADには必要なのではないでしょうか。

かの有名な佐藤可士和さんは、今治タオルのロゴマークを「品質保証」を示すアイコンとして設定しました。デザイン的な潔さもさることながら、その先の機能まで見据えた提案は、ブランドの「安心・安全・高品質」という本質を伝える経営視点が盛り込まれたディレクションだったと言えます。

 

2.点から線、面、立体的な世界観へ

グラフィック、写真、映像、プロダクト、…細かく見れば書体、色のトーンや余白の取り方まで、全てにおいて徹底した一つの世界観を作り上げる能力が、ブランドのアートディレクションには必要とされます。
今までデザインという「点」で意識していたトンマナの感覚を、様々な媒体に広げて立体的なコミュニケーションにするイメージでしょうか。
各分野の専門知識までは持ち合わせずとも、幅広いクリエイティブの分野の見識が求められていると感じます。

自らの得意とする(あるいは好きな)世界観をとことん突き詰め、案件をその領域へ持ち込む能力に長けたAD。
幅広いクリエイティブの知識で、案件がどういう世界観であるべきかを選択できるAD。
とことん案件のことを研究し、検証し、世界観を見出していくAD。
過去お付き合いのあったADの方々もディレクションの方法は様々でしたが、どの方もあらゆるジャンルのクリエイターに造詣が深かったように思います。

 

3.「答えのない問い」を抱え続ける

デザインにはある程度セオリーがあり、答えのようなものが存在することがあります。
レイアウトであれば「読みやすい」と一般的に言われる文字の組み方が、配色であれば「〇〇っぽい」と感じさせる配色がある程度存在していたりします。
しかしADに課せられるクリエイティブの課題は、決まってそのような明確なものばかりではありません。

「ただ情報を伝えるだけでなく、好奇心をグッとくすぐるコミュニケーションをWebでとりたい。」
「これまでバラバラに世に出してきた商品たちを、一つのブランドに集約してロゴと世界観を設定したい。」

など…クライアントの解決したい問題が複雑であればあるほど、ADは先例のない答えを導くことを求められます。
決まって明確な答えはWeb検索して出てくるようなものでは到底なく、とことん考え続け、確証がないまま辿り着くかすかな光のようなものです。
ADはその「答えのない問い」に対するアンテナを日常生活で張りながら、答えにつながるヒントが飛び込んでくるまでひたすら考え続ける、忍耐のいる職業のように思います。

 

4.デザインの力を信じる

デザインという言葉は、シンプルに見た目を対象とするものから、「ビジネスの問題を解決するもの」という文脈で使用されることが多くなりました。
もちろん後者も取り組むのですが、ADの本領は「見た目」のデザインでもあります。
その見た目が美しいか否かは人によって判断が分かれるところでもあり、そしてその美しさがビジネスにとってどこまで良い影響を与えているか、判断できることはほとんどありません。
そんな曖昧な行為を、それでも誰かの心を動かすきっかけになっていると信じ、カラーの数値数%、文字の感覚数mmにこだわることができるADでありたいと私は思います。

ADはビジネスとデザインをつなぐ架け橋のような存在でありながら、結局はビジネスの視点はクライアント、経営者の方々と対等な目線にまで知識を積み上げることは難しいように思います。
であればその視点は経営者の知見を頼りながら、経営者がケアできないデザインの部分をプロとして全うすることが正しい在り方のように思います。

最後に

拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
若輩者の主観ではありますが、デザイナーがADになる上で必要な素養をブランドデザイン視点でまとめてみました。
もちろんこの他にも、管理能力やコミュニケーション能力など…細かく上げるとキリがありません。
今回は概念的なお話に寄ってしまった部分があります。ですが、少しでも誰かの参考になっていれば幸いです。

そしてこれを執筆しているFRACTAのクリエイティブメンバーは、全員が「アートディレクター/デザイナー」です。
クライアントの思いを聞き、ブランドデザインの方向性を定め、自らの手でデザインを生む。
全てのフローにプロとして責任を持ってクリエイティブに当たるのが私たちです。
これからもADとデザイナーの領域を行き来しながら、柔軟にブランドのクリエイティブのお手伝いをしていければと思います。


  • お問い合わせ

    お気軽にお問い合わせください。担当者がお話をお伺いします。

  • 資料ダウンロード

    こちらから会社案内資料をダウンロードいただけます。