【三浦さん、黒瀬さんと考える】こんな時代だからこそ考えたい「ECの倫理」〜前編〜

【三浦さん、黒瀬さんと考える】こんな時代だからこそ考えたい「ECの倫理」〜前編〜

サステナビリティやエシカル(倫理的・道徳的)な消費が注目されるなか、ブランドの倫理観も問われる機会が増えています。一方で、依然として消費者とのトラブルを招くような販売手法を行うEC事業者も存在します。

ミウラタクヤ商店を運営する三浦卓也氏とStoreHero CEOの黒瀬淳一氏、FRACTA代表・河野が、改めて今考えたいEC事業者の倫理観について話します。

 

顧客との信頼関係こそが商売の要

河野:EC業界で波紋を広げている「倫理」について、最近では薬機法(*)をはじめとした法規制の枠組みに留まらず、商品を如何に売るかということにすら、深い倫理的な問いが投げかけられています。

それでもなお、倫理観を軽視した販売手法が根強く残っているのは「それが売れるからだ」というある種、冷酷な現実が存在しているからですが、三浦さん、黒瀬さんは常に倫理を重んじ、顧客を裏切らない商売をしていると感じています。その決意や想いについてお聞かせいただけますか?

*薬機法:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

 

三浦:私が倫理を大切にするのは、顧客との深く長い付き合いを心の底から望んでいるからです。ミウラタクヤ商店の商品は健康食品であり消耗品なので、お客様には毎朝毎夕なるべく長く、できれば一生愛していただきたい。
この想いは、例えるなら商売という海で航行し続ける私たちのコンパスであり核心です。私は一過性の商売には興味がありません。何よりも大切にしているのは顧客と深く、長い関係を築くこと。そして、その鍵となるのは信頼関係だと信じています。

特に健康食品やコスメの分野では、顧客に対して真摯に対応することが不可欠です。倫理観を軽視する行為は、信頼を裏切ることにもなり得るのです。顧客との長期的な関係を築くことへのこだわりが、時に組織としての目標設定やチームワークを乱す問題を引き起こすことも理解しています。それでもなお、究極的には真の利益につながると信じています。

個人的な視点になりますが、私は自分の仕事に誇りを持ち、家族に胸を張っていたいのです。信頼を失うような商売は私の信念に反するというのも、私自身の価値観から来るものです。そしてミウラタクヤ商店は、数値的な評価と感情的な評価それぞれから、提供するサービスが顧客の心を満たす役割を果たしていると自負しています。

 

河野:目先の利益だけではなく、10年、20年という長いスパンで商売と向き合うことがいかに重要かということを考えさせられますね。

 

三浦:ミウラタクヤ商店はお客様からの信頼に支えられています。そして、私たちは提供する商品やサービスを通じて、お客様が真の幸せを感じてくれていると信じています。これは、私たちとお客様との長い付き合いが生んだ深い絆であり、商売の真髄だと感じています。

 

河野:商売は決して一方通行ではないということですね。

 

三浦:その通りです。私にとっては当たり前のことですが、商品を購入してもらいお金を受け取ることはプロセスの一部でしかありません。まずはお客様に私たちのことを認知してもらい、理解してもらう。そして継続的に商品を購入してもらうことで、私たちを心から応援してくれる「ファン」になってもらうことが何よりも重要だと考えています。これら全てが、信頼を失わずに商売を続けるために不可欠なプロセスです。

 

河野:黒瀬さんはいかがでしょうか?StoreHeroさんは主に事業者を支え、助ける立場にいると理解しています。顧客である事業者には、一日も早く売上を伸ばして欲しいと願う一方で、時間をかけ段階を踏んで進むことも必要だと思います。三浦さん同様に、黒瀬さんもそのための信念をお持ちだと思います。

 

黒瀬:我々のアプローチは、現在起こっている問題を真剣に考察することから始まります。三浦さんが指摘していたように、大袈裟な虚偽を並べることで一時的に売上は伸びるかもしれません。しかし、Eコマースのビジネスでは、リピート購入やリファラル購入で利益が生まれることが一般的です。一度虚偽が露見し、信頼を失い顧客が遠ざかった場合、たとえ利益が出ていたとしても果たしてそれは適切なものと言えるのでしょうか。

我々が最も重視しているのは、高額な商品を一度に大量に購入してもらうことではなく、「この店なら信用できる」という信頼関係を築くことです。その信頼の元に人々が集まり、顧客が新たな顧客を呼ぶことでコミュニティが形成されていく状況を作り出していくことです。これは、短期的な利益追求の行動とは真逆のものです。

虚偽によって得られる利益は、一時的には大きく見えるかもしれませんが、組織全体から見れば、それほど大きなものとは言えません。我々が倫理に反するような行動を取らないのは、顧客がより大きな成長を遂げる状態を顧客とともに目指すことを我々の商売の基本的な価値観としているからです。

また、我々が支援する事業者も、一時的な利益追求ではなく信念を持って信頼を築き上げる覚悟を持っているケースが多いと感じます。それが我々が仕事をしやすいと感じる理由の1つでもあります。本当の成功をつかむためには、時間をかけて誠実に取り組むことが必要だということは、顧客からの強力な後押しもあり強く感じています。

 

目先の利益を追うことのリスク

河野:正攻法で挑んで支持されることが理想であり、プライドでもあるのだと感じました。

お2人の考え方には共通する2つのポイントがあります。1つは、合理的に考えて利益を追求するのに最も必要、かつ近道なのは、実は倫理的に正しい道を進むことであるという考え方。そしてもう1つは、後ろめたさを感じながら仕事をするよりも、面白さを求め、個人としての矜持を保つことの方が心理的に健全である、という考え方です。

しかし今の世の中は、倫理に反して、信頼や長期的な利益を失ってまで目先の利益を追うという事象も多々見受けられます。なぜそうなってしまうのか、何が原因だと思われますか?

 

三浦:実際にそういう人たちと話してみると、根本的に感性が違うと感じます。彼らはシンプルに自分という個人の活躍や数字という成果を上げることが最重要だと思っている。もちろん、それによって数百億の売り上げを上げている人もいるので、必ずしも全てが間違っているというわけではありませんが…。

きっと根本にある感性や大切にしていること、ポリシーが違うから、こういった行動をとっているのでしょう。そういったマーケットの特徴は、関わっているプレイヤーが少ないのに対して数字は大きいということ。倫理的に不適切と思われる行動が強く市場に映し出されているようにも感じます。

 

黒瀬:結果として数字を出すということ自体は商売として素晴らしいですし、数字は避けて通れない課題だと思います。しかし、その達成の仕方、勝ち方が問われているのかもしれません。僕らが求めているものは、彼らとは違うのでしょうね。

 

河野:お2人の話からは、商売をする以上お客さんにはお金に見合う価値を提供し、喜んでもらいたいと思っていることがわかります。そしてその結果として事業者自体の利益も上がる。ここでただ売り上げだけを追求すると、気付いたら倫理が欠けてしまっていたという事態に陥る可能性があるということですね。

 

黒瀬:売りたいと思うのは全ての事業者に共通することですし数字で成果を出すことはもちろん重要ですが、同時にその結果を生む過程、すなわち「勝ち方」も重要です。一見同じ目標を追い求めているようでも、その背後にある意義や価値観は様々です。

商売をする上で忘れてはならないのは、お客様に出していただいたお金に対して対価をきちんと渡し、喜んでもらうことです。そして同時に、事業者側もしっかりと利益を上げること。ここが一方通行になって自分の売り上げだけを追求し始めると、倫理が無視される危険性が生まれます。売りたいという欲求と、その過程での倫理観のバランスを取るのは難しいですが、売るためだけに倫理を無視するということは決してあってはならないことです。

 

三浦:この界隈の人々と話していて感じるのは、彼らは全力でビジネスに取り組んでいるということです。しかしながら、それが一部の人には非倫理的な行動や偽の情報の発信と捉えられてしまうこともあります。これに対しても十分注意が必要です。私たちのように健康食品を扱う業界では、近年上場するような例も増えてきました。それにも関わらず、一部の企業は不正な方法で利益を上げているという事実が残念でなりません。

この現状を、消費者の立場で改めて考えてみようと思います。例え情報に精通していても、詐欺的な方法に騙され、被害を受けることがあるというのが現実です。私自身、健康やダイエットに関する相談を受けることが多いですが、そうした人々の中には、詐欺まがいの手口によって利益を得ようとする業者を信用してしまう人もいます。

ダイエット商品の広告を見て騙されてしまう人の背景には自身のコンプレックスがあります。そのコンプレックスが刺激され、商品を購入してしまうのです。例えば、うつ病の方が治療薬の関係で太りやすくなってしまい、ダイエットを始めようとしたとしましょう。しかし、ダイエットには大変な努力が必要で、途中で挫折し自己嫌悪に陥ってしまうこともあります。そのタイミングでインターネット等で甘美な誘惑を伴ったダイエット広告を見ると、思考停止になり商品を購入してしまう。これは騙されているというよりも、弱点につけ込まれている状態です。

消費者庁が詐欺に対する注意喚起をしているにも関わらず騙される人が絶えないのは、弱点につけ込まれている状態を回避することが困難であるからで、私たちはこの事実と向き合う必要があります。

 

河野:言われてみると確かに、詐欺にあったことがない人から見ると、なぜ騙されるのか理解できないかもしれません。しかし、心が弱っている人々にとっては、助けになると思える提案にすがりたくなってしまいますよね。

 

三浦:これは思春期の子供がニキビに悩むことも同じです。彼らがニキビ治療の広告を見て、その製品にすがり購入してしまう。何かに助けられるということは非常に救いを感じますよね。でも、それを逆手に利用されていても、なぜか人は気がつかず引き込まれてしまう。

例えば、「この特定の飲み物を飲まないともうあなたの人生はダメだ」と言われたらどうでしょうか。通常ではまったく気にならなくても、自分が弱っている時だったらたまらなくなって信じてしまうことがあります。それは、モラルハラスメントやDVに近い感覚だと思います。相手を追い詰めることで、何も感じなくさせてしまう。これは結局、倫理の問題にもつながると思います。人はそんなに強くない。

 

後編に続きます)